連載コラムシネマセラピー

私たちの身近にある映画、ドラマ、CMなどの映像作品(シネマ)のご紹介を通して、コミュニケーションメンタルヘルスセクシャリティを見つめ直し、心の癒し(セラピー)をご提供します。

【2ページ目】2019年10月号 映画「万引き家族」【前編】-年金の財源を食いつぶす!?「障害年金ビジネス」とは?どうすればいいの?

社労士の「ブラックボックス」

治は、日雇いの建築作業員ですが、実際はほぼ働いていません。信代は、クリーニング工場のパートをリストラされてからは無職のままです。ここで、仮定の話です。もし信代が、リストラのストレスから不眠になり、睡眠薬をもらうために心療内科にしばらく通院しているとしましょう。そして、インターネットで精神障害年金の受給の仕方を指南する社労士の存在を知ったとしたら? 信代は、治を引き連れて、いっしょにその無料相談に飛び付くでしょう。
次に、社労士の「ブラックボックス」を3つに分けてみましょう。

①権利を勝ち取る-過剰な権利擁護
障害年金の等級が得られるかどうかは、精神科医がどう診断書を書くかでほぼ決まってしまうのを、社労士は熟知しています。よって、年金が得られるように、社労士は精神科医に働きかけます。

例えば、本人の日常生活の困難な状況を具体的な記載した「病状報告書」と日常生活能力の判定と程度についての「診断書原案」を医療機関に送ってきます。さらに、診断書が作成され厳封されたあとの場合でも、その診断書を年金事務所に提出する前に本人に開封させ、「もっと病状が重い」との理由で、日常生活能力の判定と程度についての「診断書訂正案」を送ってきます。5年前まで遡った請求(遡及請求)の場合、5年前の病状について作成した診断書にも介入してきます。医療機関に直接電話をかけてきたり、患者に代行や同行をして、精神科医と直接交渉する社労士もいます。精神科医が少なくとも1年半以上継続して患者を診ているのに対して、社労士は医療関係者でも専門医でもなく、障害年金の申請前にせいぜい数回しか本人の病状を確認していないにもかかわらずです。

社労士は患者にも働きかけます。例えば、精神科医が4週間毎の通院で良いと患者に言っても、患者は2週間毎の通院を希望します。これは、患者が精神科医に「社労士からそう言われたから・・・」とうっかり漏らすことで判明します。もはやどちらが主治医か分からなくなります。ここまで徹底する社労士には、一体どういう心理があるのでしょうか?

1つ目は、権利を守る、権利を勝ち取るという心理です(過剰な権利擁護)。社労士の仕事は、本来、患者の「権利を守る」ことです。しかし、この「権利を守る」は、行き過ぎれば「権利を勝ち取る」にすり替わります。さらには、「(病状が良くなることで)失うはずの権利を勝ち取り続ける」ことを目指すようになります。つまり、社労士は、年金の受給を確実にするために、あらゆる手を尽くすわけです。
社労士は、権利を勝ち取ること、つまり患者に「障害がある」ことを認めさせることを目指します。その立ち位置は、弁護士と同じです。一方、医師は、病状が良くなる、つまり患者に「障害がなくなる」ことを目指します。ゴールが真逆であることを理解する必要があります。

②一気に儲かる-ハイリターン
社労士は、合格率が数%と極めて低い難関資格であるにもかかわらず、その独占業務は社会保険などの手続きの代行や企業の労務管理の作成など極めて限定的です。しかも、社会保険などの手続きについては、代行ソフトが出回っており、独占業務のニーズはますます減ってきています。つまり、「資格貧乏」です。この状況は、弁護士をはじめとする士業全般に言えます。率直に言うと、社労士は、独占業務だけでは「割に合わない」「食えない」資格になりつつあります。

一方、もともと独占業務ではない障害年金の相談は、専門知識を駆使することができます。相談費用や着手金を0円として、年金の受給金額の2か月分と遡及請求金額の10%~15%を成功報酬にすると、年金が通らなければ0円ですが、通った場合は1件あたり10万~50万円の高額報酬を一気に手にすることができます。そして、その後の年金の更新のたびに、その患者から相談を受けるようにすれば、事前に数回の相談を受けるだけで毎回高額報酬を手にすることができます。すると、社労士にはどういう心理が沸き起こるでしょうか?

2つ目は、一気に儲かるという心理です(ハイリターン)。だからこそ、彼らが作成する「病状報告書」や「診断書原案・訂正案」には、改善した病状や、本人ができることについては一切触れません。よくよく考えると、彼らにとっては当たり前です。病状が良くなってもらっては、年金の権利が得られなくなり、自分たちの収益が減って困るからです。彼らが、患者に「主治医」のように振る舞い、精神科医にしつこく食い下がってくるのも納得がいきます。

③責任がない-ノーリスク
社労士は、病状を「盛る」だけでなく、「足す」こともあります。例えば、患者が初診から一度も訴えたことがない病状まで、社労士が作成する「病状報告書」には記載されています。そして、その「病状報告書」は、他の患者のとも似通っています。まるで、専用のテンプレートが存在するかのように同じ内容が記載されています。
また、患者は「社労士の先生から『年金はもらえるはずだ。でも、この診断書ではもらえない』と言われました。ひどいじゃないですか!?」と精神科医に迫ってきます。明らかに吹き込まれています。

そして、もし精神科医が診断書を社労士の「訂正案」通りに訂正しないなら、社労士は患者に精神科医を代えるよう勧めます。これは、他の精神科医を探して、再チャレンジするためです。この方法は、社労士による指南書にも書かれています。
この真の目的は、転医によって、社労士の思い通りになる診断書を手に入れるためです。転医すると、患者は病状を大げさに訴えるようになります。なぜなら、転医の目的が、より重い病状が記載された年金診断書を手に入れるためだからです。しかも、転医後は、初診から社労士がかかわっているので、抜かりないでしょう。もちろん思い通りにならなかった前医の診断書は破棄して無効にします

ここで法律的な疑問です。厳封された年金診断書を開封することは、信書開封罪(刑法133条)に当たらないでしょうか? 社労士が書いた指南書によると、当たらないと主張しています。その理由は、患者がその信書の「特定の受取人」である、患者が費用を負担している、そしてそもそも患者は自分の医療情報を見る権利があるとのことです。これは、法の解釈の間違いで、実際は信書開封罪に当たると考えられます。
その理由は、まず、信書の「特定の受取人」は、厳密には提出先の年金事務所です。

差出人である精神科医は、そのつもりで信書(診断書)を作成しており、患者を「特定の受取人」と認識していません。患者は信書(診断書)を運ぶだけの役割にすぎず、「特定の受取人」に当たりません。また、患者が負担する費用は、医療情報を信書(診断書)にするため精神科医の労力に当たります。そして、その信書(診断書)は公文書扱いです。費用を負担しているからといって、患者が受け取って自由にして良いものではありません。さらに、確かに患者が自分の医療情報を見る権利はありますが、それは、カルテ開示請求という正当な手続きを踏むことによって可能になります。厳封された封筒を開封することによってではないです。

また、厳封する理由について考えてみましょう。社労士が書いた指南書によると、「診断書の内容を本人(患者)が見てショックを受けたり、余計な詮索をされたりすることを(精神科医が)懸念して、患者への配慮(があるから)」とのことです。確かに、そう思う精神科医もいるでしょう。しかし、それは大きな理由ではないです。なぜなら、先ほど触れたように、そもそもカルテ開示請求をすれば、患者は診断書を見ることができるからです。
厳封する最大の理由は、診断書の書き換えによる不正の防止です。これは、公文書全般に言える当たり前のことです。年金診断書の原本が「丸裸」で患者に持ち運びされていること事態が、そもそも異常です。社労士は、確信犯的に「精神科医の配慮」などとのすり替えによって、厳封の理由を矮小化して患者に伝え、開封を正当化しています。なぜなら、そうしないと、彼らのビジネスが成り立たなくってしまうからです。

さらに、思い通りにならなかった前医の年金診断書を意図的に破棄して無効にすることは、実際には文書等毀棄罪(刑法258条、刑法259条)に当たると考えられます。
このように、患者は社労士にそそのかされるのです。このやり口は、精神科医と患者の信頼関係を揺るがします。なぜ社労士はそこまで手を染めてしまうのでしょうか?

3つ目は、責任がないという心理です(ノーリスク)。まず、診断書の内容について責任があるのは、診断書を作成する精神科医です。社労士は、あくまで「相談者」という立ち位置です。精神科医が作成する診断書は公文書扱いになりますが、社労士が作成する「病状報告書」と「診断書原案・訂正案」はあくまで一方的に送られてきた参考資料の扱いになります。また、厳封された診断書を開封したり破棄することについて責任があるのは、その行為をする患者です。社労士は、あくまで「助言者」という立ち位置です。
つまり、社労士がやっていることは、違法とまでは言えないです。社労士の立ち位置は、権利を勝ち取る点では弁護士と同じですが、発言や文書に責任がない点では弁護士と違います。