連載コラムシネマセラピー
私たちの身近にある映画、ドラマ、CMなどの映像作品(シネマ)のご紹介を通して、コミュニケーション、メンタルヘルス、セクシャリティを見つめ直し、心の癒し(セラピー)をご提供します。
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生殖心理の3つの起源は、哺乳(子育てへの欲求の起源)、社会脳(血縁への欲求の起源)、概念化(親アイデンティティへの欲求の起源)であることが分かりました。つまり、子どもがほしいと思う気持ちは、そもそも「ある」ものです。だからこそ、多くの夫婦は子どもができない場合、不妊治療を受けるのです。しかし、一方で少子化(低出生率)は深刻なほどに進んでいます。
ちょうど、高齢出産による子宮破裂で死産となるエピソード(シーズン1第6話)が、その原因のヒントになります。死産を踏まえて、先輩の男性医師が「やっぱ子どもは早くつくっとくべきだよなあ」と悪気なく漏らします。すると、鴻鳥の後輩女医の下屋が「女には、産みたくても産めない時があるんです。出産や子育てにはお金がかかりますし、社会に出てキャリアを積もうと思ったら、あっという間に30過ぎちゃいます」と切実に訴えるのです。確かに、少子化の大きな原因として、晩産化・晩婚化があげられるでしょう。
ただし、一方で、結婚しても最初から子どもがほしくないという夫婦も一定数います。実際に、子どもがいない女性への意識調査では、来世も自分の子どもがほしくないと回答した女性は約7%いました。
また、子どもはいても一人っ子で良いという夫婦が増えています。実際に、合計特殊出生率は、1945年の戦後しばらくまで4.00台後半でしたが、2020年には1.36にまで下がり続けています。つまり、かつては子どもを4、5人生むのが当たり前だったのに、現代は、1、2人生むのが多数派です。
子どもがほしい気持ちは進化心理学的に「ある」はずなのに、なぜ子どもを(多く)ほしくないのでしょうか? ここから、現代の少子化の心理的な要因を大きく3つあげて、文化心理学的にも踏み込んでみましょう。
①子育てのイメージができないから-親性の低下
子どもがいない女性への意識調査の中で、子どもを持たなかった理由として、「タイミングを逃した」と回答した女性が34%、「病気による体の事情」は29%いました。晩婚化・晩産化や病気によって、子どもがほしくても叶わなかったという事情はよく分かります。しかし、「育てる自信がないから」と回答した女性は25%いました。これはなぜでしょうか?
子どもを(多く)ほしくない1つ目の原因は、子どもを(多く)持つイメージができないからです。これは、親性の低下によるものです。親性とは、子育てへの自信ややりがいです。ちなみに、思春期の子どもの親性を計る尺度(親性準備尺度)として、自分の親への肯定的なイメージ、幼少期に年下の子のお世話やペット飼育、児童期に後輩への世話役(ボーイスカウト・ガールスカウト)、思春期に乳幼児にお世話をすることなどがあげられます。
合計特殊出生率が4以上であった原始の時代から戦後しばらくの時代までは、上の子たちが年の離れた下の子たちの面倒を見ることが当たり前でした。つまり、子どもの時に、ある程度の責任を負わされる子育てをすでにしていました。こうして、親性は家庭内で自然に育まれていました。
しかし、現代は、すでに家庭内で子どもが1人か2人で、年があまり離れていなければ、上の子が下の子の面倒を見るチャンスはないでしょう。また、昨今のコンプライアンスの問題から、年が離れているからといって、上の子が下の子の面倒を見る責任を親が負わせるのは、ためらわれます。住宅環境のコンプライアンスから、ペットを飼うことも大変です。海外と比較しても、日本の学校制度は、集団主義的な文化から、同年齢同学年による教育が徹底しているため、地域でも異年齢のグループができにくく、年下の子への世話役のチャンスはありません。結果的に、子どもの時に子育てのイメージができず、親性は自然とは育まれなくなっています。少子化が、さらなる少子化を招いているとも言えます。
実際に、生涯未婚の研究(2015)において、一人っ子の男性は兄弟姉妹がいる男性に比べて約13%生涯未婚率が高く、一人っ子の女性は兄弟姉妹がいる女性比べて約5%生涯未婚率が高いという結果が出ました。この結果は、少子化が単に生涯未婚だけでなく、親性に影響を与えている可能性も示唆します。
また、親が子育てに不満を持ち、愚痴っぽい場合、子育てをするロールモデルが存在しないため、その子どもが大人になっても、子育てをするイメージはできにくいでしょう。ちょうど、親が不仲であったために、結婚生活を送るロールモデルが存在せず、その子どもが大人になっても、結婚をうまく続けるイメージができず、結婚をためらう非婚の心理に似ています。
②子育てで自分のやりたいことができなくなるから-生存の充実化
子どもがいない女性への意識調査の中で、子どもがいなくて良かったと感じることとして、「自分のために使える時間が多い」と回答した女性が81%、「自分のしたいことを優先できる」は71%いました。
子どもを(多く)ほしくない2つ目の原因は、子どもが(多く)いると自分のやりたいことができなくなるからです。これは、ライフスタイル(生存)の充実化によるものです。原始の時代から戦後しばらくの時代までは、仕事以外の活動は、子作りと子育てくらいしかやることがありませんでした。つまり、生きている間に生存と生殖にそれぞれ注ぐエネルギー(コスト)の配分のバランスがとれていました(生活史戦略)。
しかし、高度経済成長期を過ぎた1970年代から世の中は物質的には豊かになったことで、生活の余裕ができて、個人の生き方の選択肢が増えました。ドラマの下屋のように女性も仕事を持ちキャリアを積む、自分の趣味を持ち旅行などレジャーを楽しむなどなど、子育てよりもやりたいことが増えてしまいました。ちなみに、これは、日本に限らず、全ての先進国に当てはまることで、実際に多くの先進国で少子化が起こっています。
特に日本では、自分のライフスタイルの充実を目指すあまりに、子作り・子育てはおろか、結婚までも目が向かなくなってしまいました。これは、生存と生殖のバランスが大きく崩れている状況です(トレードオフ)。これも、非婚の心理に通じます。
③子育てにお金がかかりすぎるから-生殖の高コスト化
子どもがいない女性への意識調査の中で、子どもがいなくて良かったと感じることとして、「経済的な余裕が生まれる」と回答した女性が64%いました。
子どもを(多く)ほしくない3つ目の原因は、子どもが(多く)いるとお金がかかりすぎるからです。これは、子育て(生殖)の高コスト化によるものです。原始の時代から戦後しばらくの時代までは、子育てにはお金があまりかかりませんでした。むしろ、家業のための児童労働がまかり通っていたため、子どもは一家の大切な労働力(生産財)として必要でした。
しかし、現代は、児童労働は禁止された上に、子どもの将来(生存競争や生殖競争)がより有利になるように、親は投資(消費財)として教育にお金をかけるようになりました。特に著しいのが、日本をはじめとする東アジアです。なぜなら、この地域では、集団主義(権威主義)が根強く、親が世間体を気にして、子どもの価値を高めることに全力を注ぐからです。
もちろん、不妊治療にもお金がかかります。また、核家族化によって、祖父母や上の子どもからのサポートが得られず、いわゆるワンオペ育児になりがちであるという点で、労力(コスト)がかかりすぎる面もあります。
先ほど触れた生活史戦略としても、生存にかけるコストがすでに増えているため、生殖にかけるコストは限られます。しかし、生殖にもかけるコストが増えることも見込まれるため、結果的に、産む子どもの数を極限まで減らすという選択をとらざるをえなくなるというわけです。
ちなみに、生物の生活史戦略において、その個体の子どものサイズが小さい場合は多産・多死型になる一方、サイズが大きい場合は、かけられるエネルギー(コスト)が限られているため、そして相対的に縄張りが狭くなるため(子ども同士の生存競争が激しくなるため)、必然的に少産・少死型になります。つまり、人類の少子化は、生物進化の必然とも言えるでしょう。
これらの3つの心理的な要因は、子どもを(多く)ほしがらないだけでなく、(なかなか)結婚したがらない、つまり晩婚化・晩産化、さらには非婚の要因にもなっている可能性が考えられます。なお、非婚の心理については、以下の関連記事をご参照ください。