連載コラムシネマセラピー

私たちの身近にある映画、ドラマ、CMなどの映像作品(シネマ)のご紹介を通して、コミュニケーションメンタルヘルスセクシャリティを見つめ直し、心の癒し(セラピー)をご提供します。

【1ページ目】2021年7月号 映画「そして父になる」【その3】これからの親子の絆とは?【生殖の物語】

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・少子化
・DNA鑑定
・生殖医療
・生殖の物語
・ステップファミリー
・共同育児(アロペアレンティング)
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その2では、映画「そして父になる」を通して、血縁心理の起源を精神医学的に解き明かしました。

血のつながりにこだわるのは、父親であることが確実ではない(父性の不確実性)、年を重ねると保守化する(社会脳)、自分に似ている子どもをかわいく思う感覚を知ってしまう(排他性)、子育てに多くのコストをかける(格差)という4つの進化心理学的な原因があることが分かりました。

それにしても、現代の社会では、実は血のつながりへのこだわりが強まっているようです。それは、なぜでしょうか? そして、私たちはどうすればいいでしょうか? これらの答えを探るために、今回は、引き続きこの映画を通して、これからの親子の絆を生殖の物語としてとらえ直してみましょう。

なんで血のつながりへのこだわりが強まっているの?

現代の社会では、実は血のつながりへのこだわりが強まっているようです。それは、なぜでしょうか?

ここから、その原因を3つあげてみましょう。

①子どもの数が少なくなったから-少子化

雄大は、慶多を含めて、子どもが3人います。一方、良多は、琉晴1人だけです。子どもの数だけでみれば、良多は生殖の適応度が低く、心に余裕がないと言えるでしょう。逆に言えば、雄大は生殖の適応度が高く、比較的に余裕があると言えます。つまり、血のつながりへのこだわり度は、「子どもの数が少ない男性>子どもの数が多い男性」と言えます。これも、「良多>雄大」の順番を支持します。

血のつながりへのこだわりが強まっている原因として、1つ目は、子どもの数が少なくなったからです(少子化)。合計特殊出生率は、1945年の戦後しばらくまで4.00台後半でしたが、2020年には1.36にまで下がり続けています。つまり、かつては子どもが4、5人いるのが当たり前だったのに、現代は、1人か2人になってしまいました。

実際に、戦後しばらくまでは、子どもが数人いる状況で、妻が浮気をして1人くらい婚外子がいても、許される傾向にありました。そのわけは、すでに血のつながりのある子が多くいる男性ほど、婚外子ができたために離婚してシングルファーザーになるよりも、婚外子がいながらも結婚生活を維持する方が、無事に実子たちの子育てができる、つまり生殖適応度が高いからです。

なお、浮気の心理の詳細については、以下の関連記事をご覧ください。


>>【浮気の心理】

②血のつながりがはっきりするようになったから-DNA検査

慶多と琉晴の散り違えが判明したのは、小学校入学前の血液型検査でした。そして、確定検査であるDNA鑑定で、「生物学的親子でない」と結論づけられます。

血のつながりへのこだわりが強まっている原因として、2つ目は、DNA鑑定によって血のつながりがはっきりするようになったからです。血のつながりがあるかを検査によって確かめられるということは、裏を返せば、血がつながっていないかもしれないという不安を煽ることになります。

逆に言えば、検査技術がない近代までは、血のつながりは確かめようがなく、ぼんやりとしたものだったでしょう。実際に、養子を血縁関係があるような跡取りと見なすこと(擬制)や、生後間もない他人の子どもを実子として引き取って虚偽の出生届を出す「藁の上の養子」(実子入籍)は、珍しくありませんでした。

③血のつながりのある子を生めなかった人が生めるようになったから-生殖医療

この映画のノベライズ版では、良多とみどりは、2人目不妊であることが明かされています。不妊治療をするということは、それだけ血のつながりへのこだわりを強めることになるでしょう。

血のつながりへのこだわりが強まっている原因として、3つ目は、生殖医療によって血のつながりのある子を生めなかった人が生めるようになったからです。不妊治療は、やり続けると止められなくなる依存症(嗜癖)の要素があります。特に、次こそ妊娠して今までの高額な治療費を無駄にしないようにしたいと思う、ギャンブル依存症における負け追いの心理があります。それだけのめり込んでいるため、逆に、養子という選択肢は発想すらできなくなるようです。

実際に、子どもを欲する不妊夫婦の調査において、養子縁組みや里親制度によって育ての親になるのは、不妊治療をしなかった人は76%と高いのに、不妊治療をした人は56%(不妊治療により出産したケースは除く)と低い結果になっています。また、不妊治療中の人たちへの別の調査では、養子縁組や里親制度について考えたことがあるのは31%にとどまり、考えたことがないのは69%の大多数でした。

これらの結果から、不妊治療をする夫婦は、不妊治療をしない夫婦よりも、結果的に養子縁組みや里親制度による育ての親にならなくなっています。つまり、不妊治療をするというプロセスによって、なおさら血のつながりへのこだわりが強まり、育ての親になることをその後により望まなくなっている可能性が示唆されます。

もちろん、不妊治療をしない人は、もともと血のつながりにあまりこだわらず、育ての親になることに抵抗がない、逆に不妊治療をする人はもともと血のつながりに強くこだわり、育ての親になることに抵抗があるというもともとの違いによる結果である可能性もあります。

なお、不妊の心理の詳細については、以下の関連記事をご覧ください。


>>【不妊の心理】