連載コラムシネマセラピー

私たちの身近にある映画、ドラマ、CMなどの映像作品(シネマ)のご紹介を通して、コミュニケーションメンタルヘルスセクシャリティを見つめ直し、心の癒し(セラピー)をご提供します。

【3ページ目】2021年9月号 映画「キッズ・オールライト」【その1】どうしても生みの父親を知りたい? それぞれの利害は?【精子提供】

精子ドナーの心理は?

さらに、精子ドナーの心理とはどういうものでしょうか? ここからその心理を大きく3つあげてみましょう。


①楽して儲かる―外発的動機づけ

ポールは、レイザーから「(精子提供の報酬が)それだけ!?」と悲しそうに言われて、「(60ドルは)当時の僕には大金だったけどね。今なら90ドルくらいかな」と付け加えます。

1つ目の心理は、精子提供は楽して儲かると思うことです。これは、純粋に報酬が高いという外発的動機づけです。特に、経済力のない学生ならなおさらでしょう。日本でも、かつて特定の私大医学部で医学生を対象に1回1万円の報酬で行われてきました。しかし、匿名を条件にしていたため、その精子ドナーが記録されることはありませんでした。

②人の役に立てる-利他性

ポールは、精子提供の理由を「人の役に立ちたかったし」とレイザーに説明していました。

2つ目の心理は、精子提供は人の役に立てると思うことです。これは、寄付(献金)、献血、骨髄提供、臓器提供、献体などと同じく、そうすることで社会に貢献したいという利他性です。そうしたいからそうするという内発的動機づけの1つでもあります。ポールは、マイペースではありますが、相手を喜ばせることが好きな一面もあるので、なおさらでしょう。

③自分の遺伝子を残せる―生殖心理

ポールは、精子提供の理由を「献血よりおもしろいと思ったから」とレイザーに説明していました。この「おもしろい」と思うことも、好奇心として内発的動機づけの1つです。その根っこにある心理は何でしょうか?

3つ目の心理は、精子提供は自分の遺伝子を残せると思うことです。これは、子孫を残したいという生殖心理です。ポールは、独身主義で結婚相手や子どもそのものを望んでいませんでしたが、精子提供は自分の遺伝子を残す代わりの行動として、生殖心理の視点から考えると理に適っていると言えるでしょう。

なお、生殖心理の詳細については、以下の関連記事をご覧ください。

>>【生殖心理】

★図1 それぞれの心理

>>【その2】そのツケは誰が払うの? その「不都合な真実」とは?【生殖ビジネス】