【1ページ目】2022年2月号 アニメ「ちびまる子ちゃん」【続々編】その教室は社会の縮図? 男子校と女子校の危うさとは?【恋愛能力】
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・中学受験
・男女別学
・恋愛(生殖)における非認知能力
・恋愛心理の臨界期
・「反応性恋愛障害」
・恋愛の機能
・男性の恋愛能力
・女性の恋愛能力
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昨今、中学受験のための教育熱が過熱しているようです。その中でも、特に男子校と女子校のエリート中学校は人気があります。その理由は、異性を意識せずに学業に専念して、将来的にエリート大学に入学してエリート職に就くことを多くの親が見越しているからでしょう。または、同性同士で切磋琢磨して、「個性が際立つ」という意見もあるようです。特に女子は、リーダーシップを育むことができるという意見もあるでしょう。
そのベネフィットがある一方で、そのリスクはないでしょうか? ベネフィットばかりに目が向き、そのリスクをあまり気にしていない親が多いようです。そして、そのリスクについて、アカデミックに掘り下げた記事があまり見当たりません。
この答えを探るために、今回も、アニメ「ちびまる子ちゃん」のキャラクターを使います。このアニメのキャラクターたちは、前回の記事(以下)で、小学校のエリート教育のリスクの考察のために登場してもらいました。
今回は、ちびまる子ちゃんのクラスメートを選抜した男子校と女子校を想定し、そこから男女別学のリスクを、恋愛心理の視点で明らかにします。そして、その根拠を、脳科学的に、発達心理学的に、そして進化心理学的に掘り下げます。さらに、恋愛を「能力」としてとらえ直し、恋愛の機能を解き明かします。最後に、共学であっても別学であっても、私たち(または私たちの子どもたち)はどうすればいいのかという恋愛の本質に迫ってみましょう。なお、今回は、異性愛に焦点を当てています。同性愛や性別違和(性同一性障害)については、割愛します。
男子校と女子校に進学しそうなキャラクターは?
ちびまる子ちゃんのクラスメートは、まる子をはじめとする様々なキャラクターがいました。その中で、男子校と女子校のエリート中学校に進学しそうなキャラクターは誰でしょうか?
エリート中学校が選ぶ基準は、基本的に試験の学力(認知能力)と小学校の内申点(学校活動)です。これを踏まえて、誰が合格するかをいっしょに想像してみましょう。
①エリート男子校
最も合格する可能性が高いのは、丸尾くんです。彼は、生真面目キャラで、勉強熱心であることに加えて、学級委員になることに執着する典型的な優等生です。前回の記事で彼といっしょにエリート小学校にいそうであると考察した花輪クンも合格する可能性はあります。ただし、花輪クンは、学校活動に丸尾くんほど積極的ではない点で、どちらかで言うと、丸尾くんが選ばれるでしょう。そもそも、花輪クンは、セレブキャラで、語学力がすでにあるため、海外のエリート学校に行ってしまうかもしれません。
②エリート女子校
最も合格する可能性が高いのは、みぎわさんです。彼女は、思い込みキャラですが、丸尾くんと同じく、勉強もできて、学級委員を勤め上げる優等生です。ちなみに、前回の記事で彼女といっしょにエリート小学校にいそうであると考察した城ヶ崎さんは、みぎわさんほど合格の可能性は高くないです。その理由は、城ヶ崎さんは、お嬢様キャラで、特に勉強熱心ではなく、学校活動もみぎわさんほどしていないからです。むしろ、城ヶ崎さんは、エリート中学校にいるとしたら、エリート小学校からエスカレーター式に上がってきている場合でしょう。そして、そのまま女子大まで進学しそうなキャラクターでしょう。
なお、たまちゃんは、しっかり者キャラで優等生であるため、合格する可能性はあります。前回の記事で、彼女は、小学校受験では、がんばったとしても、父親が変わり者であるため、親子面接で惜しくも落とされると考察しました。中学受験では、親子面接がないことが多いため、可能性が出てきます。ただし、彼女は、友達を大事にするキャラクターなので、まる子といっしょに公立中学校に進学する道を選ぶでしょう。
男女別学のリスクとは?
ちびまる子ちゃんのキャラクターの中で、エリート男子校にいる典型的なキャラクターは丸尾くんで、エリート女子校にいる典型的なキャラクターはみぎわさんであることが分かりました。
それでは、ここから、この2人のキャラクターをイメージしながら、男女別学のリスクを大きく3つあげ、脳科学的に解釈してみましょう。
①身近にいる異性を好きになれない-消極性
エリート男子校に進学した思春期の丸尾くん、エリート女子校に進学した思春期のみぎわさんは、勉強に部活(おそらく文化系)に励むでしょう。しかし、1日に多くの時間を過ごすその学校には、異性はいません。
その代わりとして、ネット・アニメ・マンガなどに出ている理想化された異性のアイドルやキャラクターへの思い入れを強めてしまうでしょう。理想化された男性は、昔から「王子様」と呼ばれています。最近、理想化された女性は「女神」と呼ばれているようです。そして、その分、必然的に、実際の現実的な異性を好きになる経験が少なくなるでしょう。
男女別学のリスクの1つ目は、身近にいる異性を好きになれない、つまり恋愛への消極性です。実際に、ある結婚相談所でのアンケート調査で、「(実は)結婚したくない」と回答した人は、共学出身の男性が18%であるのに対して、男子校出身者は28%であることが分かっています。また、共学出身の女性が8%であるのに対して、女子校出身者は11%であることが分かっています。つまり、特に男子校出身者は結婚に消極的になりがちであることが示唆されます。
女性よりも男性にこの傾向が見られる原因として、もともと男性は女性よりも共感性が低いという性差が考えられます。これは、恋愛の量的な問題と言えます。なお、「結婚したくないけど、身近にいる異性を好きになる」人は、そもそも結婚相談所に入らないことが想定されますので、除外します。
「(実は)結婚したくない」のに結婚相談所に入っている理由は、親など周りからの推奨(または圧力?)が推測されます。自分の意に反して親などに従ってしまう点で、自分らしい人生を送ることへの消極性も、うかがえます。また、現実的な異性との結婚には消極的ですが、あいかわらず「王子様」や「女神」との結婚を夢見ていることも、うかがえます。しかしながら、男子校出身者については、この婚活における内面的なディスアドバンテージが、エリートになることによる社会的地位や経済力などの外面的なアドバンテージによって、ある程度緩和または相殺されている可能性はあります。つまり、エリート男性になった丸尾くんは、実は結婚に消極的ですが、婚活ではモテてしまうということです。
男女別学は、それだけ現実の異性への「惚れ慣れ」ができなくなるリスクがあると言えます。この「惚れ慣れ」は、恋愛(生殖)における自発性(非認知能力)とも言い換えられます。脳科学的に言えば、これは、現実的な異性を好きになる経験の積み重ねによる快感(ドパミン活性化)によって高まると考えられます。
②異性をそのまま受け止められない-ストレス脆弱性
思春期の丸尾くんは、女子たちが時に情緒的になるのを見慣れることはありません。一方で、思春期のみぎわさんは、男子たちが理屈っぽくなるのを見慣れることはありません。そして、そんな2人は、異性を好きになって告白してフラれたり、付き合ってけんか分かれしたり、仲直りしたりする経験を積み重ねることはありません。
一方で、「王子様」や「女神」は、当然ながらアイドルビジネスであるため、彼らを気持ち良くさせる都合の良いリアクションを徹底的に演じます。そんな「王子様」にみぎわさんは、かなりハマってしまいそうです。そして、その分、必然的に、実際の現実的な異性を理解する経験が少なくなるでしょう。
男女別学のリスクの2つ目は、異性をそのまま受け止められない、つまり恋愛へのストレス脆弱性です。実際に、結婚相談所でのアンケート調査の結婚相手に求める条件において、「性格」「金銭感覚」の項目の割合は、共学出身の男性と女性のどちらも、男子校出身者と女子校出身者を上回ったのに対して、「家柄」「同じ出身地」の項目の割合は、男子校出身者と女子校出身者のどちらも、共学出身の男性と女性を上回ることが分かっています。さらに、男子校出身者は「収入」「仕事内容(勤務先)」、女子校出身者は「自分の両親との良好な関係」「容姿」の項目を重視する傾向があることが分かりました。つまり、共学出身の男性と女性はより内面を、男子校出身者と女子校出身者はより外面を重視する傾向があることが示唆されます。この原因として、男子校出身者と女子校出身者は、相手選びにおいて、分かりにくい内面よりも、分かりやすい外面(スペック)に頼ってしまうことが考えられます。
さらに、恋愛において、異性を理解する経験が少ないと、自分自身を理解する経験も少なくなる、つまり自分自身をそのまま受け止められないリスクもあります。なぜなら、恋愛は、自分が受け止めるだけでなく、相手から受け止めてももらう「合わせ鏡」(相互作用)で成り立っているからです。つまり、丸尾くんは「女神」を求め続ける永遠の「少年」になってしまい、みぎわさんは「王子様」を待ち続ける永遠の「お姫様」になってしまうということです。
結果的に、大人と大人の関係として、内面的に自分に合う(釣り合う)相手を見極めることを軽視してしまい、相手選びの外面的なハードルばかりが上がってしまいます。また、フラれた場合、納得ができず、ついストーカー行為をしてしまう場合もあるでしょう。これは、恋愛の質的な問題と言えます。
男女別学は、それだけ現実の「異性慣れ」ができないリスクがあると言えます。この「異性慣れ」は、生殖におけるセルフコントロール(非認知能力)とも言い換えられます。脳科学的に言えば、これは、現実的な異性を受け止める経験(曝露)の積み重ねによるストレス耐性(セロトニン不活性化の抑制)によって高まると考えられます。
③異性といっしょにいて楽しめない-排他性
思春期の丸尾くんとみぎわさんは、それぞれの男子校と女子校で、同性のクラスメートたちとの連帯感(同調性)を強めるでしょう。これは、「男子校ノリ」「女子校ノリ」と呼ばれています。また、丸尾くんやみぎわさんがそれぞれ思い入れるアニメやマンガで登場する「女神」や「王子様」は、どんどん積極的にアプローチしてくるので、丸尾くんやみぎわさんは何もしなくてもよいことになります。これは、多くの人が望む性的ファンタジーです。だからこそ、そういうストーリーがよく作られるわけです。そして、よく売れます。そしてまたよく作られるというからくりがあります。現実の異性は違うことを、実体験として理解することが難しくなります。
つまり、同性同士の連帯感と理想化した異性との性的ファンタジーが高まる分、必然的に、実際の異性といっしょにいる時間を積極的に楽しむ経験が少なくなるでしょう。
男女別学のリスクの3つ目は、異性といっしょにいて楽しめない、つまり恋愛への排他性です。実際に、イギリスの研究調査において、共学出身の男性よりも、男子校出身者の方が、42歳までに離婚や別居に至るリスクがやや高いということが分かっています。この原因として、異性といっしょにいて楽しむ経験を積むことがなく、楽しもうと積極的になっていないことにより、いっしょにいることがむしろ苦痛に感じてしまうことが考えられます。
例えば、男性はどうしていいか分からずに楽しく思えない、女性は受け身になって不満に感じるだけで楽しく思えないことです。さらに、「男性なんだから女性の気持ちを考えてリードしてほしい(察してほしい)」「女性が急に怒るのはやめてほしい(説明してほしい)」など、相手の問題にすり替えてしまい、許せなくなってしまうことです(認知的不協和)。特に、女性は、男性から性的に見られることに慣れていない場合は、いっしょにいることがただの苦行になってしまいます。そして、結果的に、ますます恋愛経験を積むチャンスが減ってしまいます。
男女別学は、それだけ現実の異性との「交際慣れ」ができないリスクがあると言えます。この「交際慣れ」は、恋愛(生殖)における共感性(非認知能力)とも言い換えられます。脳科学的に言えば、これは、異性といっしょにいる経験の積み重ねによる同調(オキシトシンとドパミンが連動的に活性化)によって高まると考えられます。