連載コラムシネマセラピー
私たちの身近にある映画、ドラマ、CMなどの映像作品(シネマ)のご紹介を通して、コミュニケーション、メンタルヘルス、セクシャリティを見つめ直し、心の癒し(セラピー)をご提供します。
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恋愛能力が高まるのが特に思春期である理由は、性ホルモンを分泌する生殖器の発達がこの思春期に限定されているからであることが分かりました。それでは、そもそもなぜ恋愛は「ある」のでしょうか? 言い換えれば、そもそもなぜ異性を好きになり、受け止め、いっしょにいて楽しめる心が「ある」のでしょうか?
進化心理学的に言えば、その答えは、セックスだけでなく、セックスの先にある子育ても含めた包括的な生殖の適応度を上げるために必要だからです。これは、恋愛の機能と言えます。
この根拠として、思春期の女性の妊娠のしにくさ(妊娠能力の低さ)があげられます。これは、初潮直後(平均12歳)から15歳までの妊娠能力はほぼ0で、15歳以降に徐々に高まり、22歳で最大になることです。つまり、思春期の女性はたとえ頻繁にセックスをしても妊娠率が極端に低い現象です。もちろん、原始の時代に避妊具はありません。この現象は、類人猿にある程度存在すると考えられていますが、他の哺乳類には見られないことが分かっています。
このわけは、この時期に妊娠しないことで、より生殖に有利な相手選び(配偶者選択)ができるからであると考えられています。例えば、それは体格や運動能力などの身体的特徴です。さらに、人間の場合は、子育てで協力関係を築くことができるという性格的特徴もあげられます。また、自分自身も協力関係を築く練習ができるからであると考えられます。もしも、この時期にあっさり妊娠してしまったら、恋愛能力の高い相手探しも自分の恋愛能力を高める練習もできないために、その後の子育てで協力関係が築けず、生殖の適応度を下げてしまう可能性があります。
なお、思春期の男性の妊娠のさせにくさ(妊娠能力の低さ)については、不明です。おそらく、男性については、妊娠能力は低くなっていないことが推測されます。その理由として、男女の生殖戦略の違いがあげられます。それは、男性(精子)はなるべく多くの女性(卵子)を求める一方、女性(卵子)はなるべく優れた男性(精子)を求めることです。なぜなら、精子は小さくコストがかからないのでたくさんつくれるのに対して、卵子は大きくコストがかかるので限られているからです。ただし、思春期の男性の妊娠能力が低くなくても、その相手となる思春期の女性の妊娠能力が低いだけで、子どもはできないので、結果的には、思春期の男性も恋愛能力を高める練習ができると考えられます。
グラフ2に示すように、初恋(平均10歳)が初潮(平均12歳)や精通(平均14歳)よりも先行しており、恋愛心理の形成の臨界期(10歳~20歳)が女性の妊娠能力が最大になる時期(22歳)よりも先行しています。つまり、恋愛心理の形成と妊娠能力の高まりにはタイムラグがあることが分かります。逆に、もしも、恋愛心理そのものが「ない」としたら、初恋のタイミングで初潮や精通が来るはずです。そして、そのタイミングで妊娠ができるはずです。これは、他の哺乳類に当てはまります。そうならなかったのは、そうした人類の種は、長い進化の歴史の生殖の適応度を下げて、淘汰されたことが示唆されます。
進化心理学的に言えば、恋愛が「ある」のは、セックスだけでなく、セックスの先にある子育ても含めた包括的な生殖の適応度を上げるために必要だからであることが分かりました。この恋愛心理は、約700万年前に人類が誕生して、約300万年前に夫婦で子育てをするようになってから、長い時間の中で進化してきました。にもかかわらず、現在、思春期の恋愛は軽んじられているようです。なぜでしょうか?
その答えは、日本で約1000年前の平安時代から近代まで続いた封建社会の文化(権威主義的パーソナリティ)の影響が残っているからです。この心理の詳細については、以下の関連記事をご覧ください。
この文化は、個人よりも社会の秩序、つまり上下関係に重きを置きます。よって、結婚相手は、個人の意思よりも親(社会)の意向が優先されます。つまり、個人の意思(恋愛能力)がなくて受け身であっても(むしろ受け身であった方が)、結婚できたのでした。
しかし、時代は変わりました。現代は、封建社会の文化とは対照的な個人主義の文化(民主主義的パーソナリティ)が広がっています。この社会構造では、逆に受け身(恋愛能力を高めていない)ままだと、結婚がうまく行かないリスクが出てきてしまったのでした。
恋愛能力が軽んじられる原因は、封建社会の文化(権威主義的パーソナリティ)の影響が残っているからであることが分かりました。この状況を踏まえて、けっきょく私たち(私たちの子どもたち)は、恋愛にどうすればいいのでしょうか? 言い換えれば、男子校にいる丸尾くんと女子校にいるみぎわさんはどうすればいいのでしょうか?
その答えは、特に思春期に恋愛の練習をすることです。そのために、学校は、勉強する(認知能力)だけでなく、性格(社会適応能力)、そして恋愛心理(恋愛能力)を育む場所であることを再認識することです。そして、勉強、部活、恋愛のバランスをもっと意識することです。例えば、丸尾くんとみぎわさんは校外の活動でより積極的に出会う必要があります。そして、18歳で卒業したら、積極的にお付き合いをして、それ以降に、恋愛のリハビリをする必要があります。共学に進んだまる子とはまじをお手本にすることもできます。この2人が付き合って、言いたいことを言い合いながらも、いっしょにいて楽しんでいる様子は目に浮かぶでしょう。
なお、恋愛能力の男女別の具体的なスキルについては、以下の関連記事をご覧ください。
そんな丸尾くんとみぎわさんの恋愛を思春期から大人になるまで温かく見守る親、そして社会の恋愛へのあり方が望まれます。そうすることで、丸尾くんとみぎわさんは、誰もがうらやむ「女神」や「王子様」を見つけられないけれど、自分だけのほど良い「女神」や「王子様」をパートナーに見いだすことができることに気づけるのではないでしょうか?
※参考図書・参考記事
1)「男子校/女子校出身者と婚活の関係性」についてアンケート調査:(株)パートナーエージェント
2)大学生を対象とした出身高等学校の共学・別学体験に関する質問紙調査P12:茂木輝順
3)進化と人間行動P224:長谷川寿一・長谷川眞理子、東京大学出版会、2000