連載コラムシネマセラピー
私たちの身近にある映画、ドラマ、CMなどの映像作品(シネマ)のご紹介を通して、コミュニケーション、メンタルヘルス、セクシャリティを見つめ直し、心の癒し(セラピー)をご提供します。
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桜木先生は、全校生徒の前で「東大に行け!」と力説します。すると、ある生徒が「そういう(東大のように)偉そうなところ、みんな嫌いだよ」と言い放ちます。おもむろに、桜木先生は「おれもだ。東大みたいなブランド、ありがたがっている連中見るとヘドが出る。てめえが東大行ったってだけで人生成功したと思ってるやつら、目の前の相手が東大出たと知った瞬間に卑屈になるやつは、みんなゲス野郎だ」と言い返すのです。
ここで、東大ブランドの不思議な点が見えてきます。それは、東大卒というだけで優遇されることです。実は、東大ブランドの価値は、東大での教育そのもの(内容)ではなく、東大での教育が修了したという結果(形式)であるということです。その理由として、東大で受けた教育が直接一般職(専門職や研究職を除く)の仕事に貢献するのは、実際にはごく一部であるからです。もちろん、一般教養が仕事に貢献することは多少あります。語学力や論理的思考能力が培われるという意見もあります。しかし、あえて東大(もっと言えば一般の大学)の教育である必要はないでしょう。なぜなら、世の中には、語学学校やビジネススクールがたくさんあります。そして、現在の情報社会では、インターネットの動画やオンライン講座でいくらでも教養を身に付けることができるからです。そして、これらの方が厳しい競争原理が働いているため、もっと分かりやすくて楽しく、効率的に学ぶことができるからです。この点を企業側も学生側も、最初から見越しています。だからこそ、企業側も学生側も大学での成績に重きを置いていないのです。こうして、東大生(もっと言えば一般の大学生)の多くが入学後にはなるべくスムーズに単位を取って卒業するかに重きを置くのです。
応用経済学では、これをシープスキン効果と呼んでいます。シープスキンとは羊皮のことです。古くは卒業証書がこのシープスキン(羊皮紙)に印字されていたことに由来します。つまり、卒業証書(学歴)があるかないかで、受けた教育が同じであっても、収入が違ってしまうことです。
このシープスキン効果は、特に東大に限った話ではありません。OECDの報告書(2018)によると、日本人の大卒の平均収入は、高卒の1.4倍強です。40%増えた内訳は、もともとの知能の高さ、もともとの性格の望ましさ、大学における教育効果、そしてシープスキン効果が考えられます。ここで、知能テストと性格テストによる調査の結果から、この内訳を数値化したいところですが、日本ではこの研究が進んでいません。そこで、アメリカの研究を参考にします。
まず、アメリカ人の大卒の平均収入は、高卒の1.7培です。70%も増えており、学歴による収入格差が大きい点で、実はアメリカは日本よりも学歴社会であることが分かります。そして、知能テストと性格テストの補正によって、知能の高さは70%のうちの20%分、性格の良さは10%分を占めていることが分かっています(*1)。これらを足した30%分が本人の実力になります。そして、残りの増え幅の40%分が教育効果とシープスキン効果になるわけです。
教育効果とシープスキン効果の割合については、算出することは難しいです。ただ、推定されるシープスキン効果の割合が大きくなるのは、就いた仕事が教育効果の不要な一般職である場合と言えます。逆に、シープスキン効果が小さくなるのは、就いた仕事が教育効果の必要な専門職や研究職である場合と言えます。
なお、アメリカの研究では、知能テストと性格テストの補正をしても、高校中退は高卒の0.85倍、大学中退は大卒の0.78倍(高卒の1.1倍弱)になってしまうことも分かっています。これらを含めた格差からも、知能と性格が同じであっても、学歴があるというだけで収入が割り増しになっていくことが分かります。