連載コラムシネマセラピー

私たちの身近にある映画、ドラマ、CMなどの映像作品(シネマ)のご紹介を通して、コミュニケーションメンタルヘルスセクシャリティを見つめ直し、心の癒し(セラピー)をご提供します。

【1ページ目】2022年12月号 映画「ラン」【前編】なんで子どもを病気にさせたがるの?【代理ミュンヒハウゼン症候群】

********
・ミュンヒハウゼン症候群
・同情中毒
・承認中毒
・育児中毒
・罪悪感(社会脳)
・心の距離感(バウンダリー)
********

みなさんは、自分の子どもを病気にさせたいですか? 「そんなことありえない」と思いますよね。しかし、世の中には、症状をねつ造してまで自分の子どもを病気にさせたがる人がいます。それは、代理ミュンヒハウゼン症候群と呼ばれる子ども虐待です。ちょうど、前回にご紹介した「病気になりたがる人」、ミュンヒハウゼン症候群の代理バージョンです。

今回は、代理ミュンヒハウゼン症候群をテーマに、サイコスリラー映画「RUN/ラン」を取り上げ、子どもを病気にさせたがる心理やその要因を掘り下げます。なお、ミュンヒハウゼン症候群の詳細については、以下をご覧ください。


>>ミュンヒハウゼン症候群

何が最初からおかしい?

主人公は、高校生のクロエとその母親のダイアン。クロエは、早産で生まれたことで、もともと下半身の麻痺があり、車いす生活をしています。また、不整脈、喘息、糖尿病があり、さらに鉄過剰症に伴う発疹や嘔吐が見られ、たくさんの薬を飲んでいます。母親のダイアンは、働きに出ることもなく、そんな一人娘のクロエのお世話を家で熱心にしています。父親はおらず、家計をどうやって成り立たせているかは不明ですが、経済的には不自由はないようです。

しかし、ストーリーが進むにつれて、実は最初からおかしな点があることに、私たちはだんだんと気づかされます。主に3つあげてみましょう。

①クロエの部屋が1階ではない

1つ目のおかしな点は、クロエの部屋が1階ではないことです。確かに、子ども部屋は一軒家の2階にあることが多いです。しかし、車いす生活をしているのなら、必然的に1階になるのが合理的です。クロエの部屋が2階にあるため、階段にわざわざ電動の昇降機まで設置しています。

つまり、クロエは、部屋が2階にあることによって、物理的に行動範囲が制限されていることが分かります。

②クロエは学校に行っていない

2つ目のおかしな点は、クロエは学校に行っていないことです。確かに、彼女は科学好きであることから、ホームスクーリングによって、自宅で十分な教育を受けてきたことは分かります。スクールバスは、車いすに対応していないという事情があることも分かります。しかし、母親が学校までの送り迎えをしてもいいはずです。または、アメリカの高校生は車での通学も可能であることから、クロエが障害者として車の免許を取ることもできるはずです。なぜなら、学校は、単に勉強するところではなく、友達との人間関係を通して社会性を育むところでもあるからです。この映画の前半は、この2人のやり取りが家でずっと続く展開で、見ている私たちはだんだんと息苦しくなります。

つまり、クロエは、学校に行っていないことによって、人間関係が制限されていることが分かります。

③手紙を直接受け取れない

3つ目のおかしな点は、手紙を直接受け取れないことです。確かに、車いすに乗っているため、手紙を受け取るために車いすで玄関先に出ることは手間がかかります。しかし、クロエは大学の合否通知を待っているタイミングであり、本来は配達員が来たら本人に受け取らせてあげても良いはずです。それなのに、必ず母親が先に受け取ります。そして、「手紙が来ても開けないわよ」とわざわざ言うのです。また、自宅の電話機は、母親の部屋にあり、クロエが使うにはわざわざ母親の部屋に入る必要があります。母親は携帯電話を持っていますが、もちろんクロエは持っていません。パソコンは1階にありますが、調べ物をする時は、母親の目があります。

つまり、クロエは、手紙が直接受け取れないなどによって、外部との情報のアクセスが制限されていることが分かります。