連載コラムシネマセラピー
私たちの身近にある映画、ドラマ、CMなどの映像作品(シネマ)のご紹介を通して、コミュニケーション、メンタルヘルス、セクシャリティを見つめ直し、心の癒し(セラピー)をご提供します。
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・記憶喪失(解離性健忘)
・多重人格(解離性同一症)
・意味記憶
・エピソード記憶
・認知症
・PTSD
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みなさんは、3歳までの記憶がない理由を考えたことはありませんか? 記憶喪失(解離性健忘)の人が自分の名前や生い立ちを全部忘れているのに一般常識は覚えているのを不思議に思ったことはありませんか? そして、多重人格(解離性同一症)の人のそれぞれの人格は入れ代わるだけで、なぜ入り交じることがないのかを考えたことはありませんか?
記憶喪失や多重人格などの解離性障害の特徴や起源については、以前の記事(2019年1月号)で掘り下げましたが、実はこれらの謎は残っていました。
今回は、前回の記事(2023年7月号【後編】)の文法(統語機能)の起源をヒントに、再び映画「スプリット」を通して、記憶機能に関するこれらの3つの謎を解き明かします。
前回の記事(2023年7月号【後編】)から、進化心理学的に考えれば、人類は約700万年前以降に単文(意味記憶)をつくり、約20万年前以降に文脈(エピソード記憶)をつくったことが分かりました。発達心理学的にも、幼児は1歳以降で単語を覚え(意味記憶)、4歳以降でお話をすること(エピソード記憶)が分かりました。つまり、系統発生的にも個体発生的にも、意味記憶がエピソード記憶のベースになっていることが分かります。また、この2つの記憶機能が進化した時代の違いと発達する時期の違いから、意味記憶とエピソード記憶は、「記憶」として括られていますが、実はまったく別々の能力(機能)であることが分かります。
以上より、3歳までの記憶がないわけは、エピソード記憶の発達が始まるのが4歳以降だからです。逆に言えば、3歳までは意味記憶を発達させるために脳がコストをかけているということです。3歳までは、ちょうど夢を見ているのと同じように、バラバラな記憶の断片がランダムに出てくることはあっても、時系列で連続的なつながり(ストーリー)としてその後に長く記憶できないのです。ちょうど、夢で見た内容を朝起きてしばらくすると思い出せなくなる状況にも似ています。エピソード記憶が未発達だからこそ、幼児は何度も同じ本の読み聞かせをねだるのです。
エピソード記憶は、ひとかたまりのストーリーになっています。だからこそ、その後に誰かに会ったり何かを見たりする状況(刺激)によって、これまでの似たような経験の記憶(関連するエピソード記憶)として、芋づる式(連想的)に次々と思い出すことができるのです。しかも、それらのエピソードの時間的な前後関係も正しく並べ替えることができるのです。この点で、エピソード記憶の本質は、「時系列の連想記憶」であることが分かります。