連載コラムシネマセラピー
私たちの身近にある映画、ドラマ、CMなどの映像作品(シネマ)のご紹介を通して、コミュニケーション、メンタルヘルス、セクシャリティを見つめ直し、心の癒し(セラピー)をご提供します。
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・モノリンガル
・言語能力の予備能
・生活言語能力(BICS)
・学習言語能力(CALP)
・「語学障害」
・言語の距離
・モノリテラル
・モノカルチュラル
・言語の淘汰圧
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NHKワールドジャパンのコンテンツの1つに「やさしい日本語」という日本語の学習のための講座があります。日本語のやり取りの動画から、ひらがな・カタカナ・漢字の表記や例文が分かりやすく書かれています。「やさしい」というタイトルとは裏腹に、日本語自体は世界で最も難しい言語の1つとして、日本語を学ぼうとする外国の人たちを悩ませています。
一方で、英語は比較的に簡単な言語です。しかし、日本人で英語を流暢に話せる人は決して多くはありません。日本人は、難しい日本語を話せるわけなので、英語を話すのだって難しくはないはずなのにです。それどころか、実は、世界的にはバイリンガルが多数派で、日本人のように1つの言語しか話さないモノリンガルは少数派なのです(*1)。
なぜ日本人はなかなかバイリンガルになれないのでしょうか? 逆に、どうやってバイリンガルになっているのでしょうか? そもそも歴史上、バイリンガルはいつ生まれたのでしょうか?
今回は、進化心理学の視点で、バイリンガルの起源とそのメカニズムに迫ります。そこから、日本語そのものにフォーカスして、実は日本人は難しい日本語を話すからこそ英語を話せなくなっている原因を解き明かします。そして、日本人がもともと外国語の習得に困難がある状態を「語学障害」と名付け、日本人ならではの国民病(文化結合症候群)としてとらえ直します。
前回(2023年9月号)に、言葉の学習の敏感期(グラフ1)の観点から、英語教育は、中学校からでは遅すぎて、幼児期では早すぎることが分かりました。この詳細については、以下の記事をご覧ください。
グラフ1が示すように、言葉の学習の敏感期に外国語を学習すれば、私たちは当たり前のようにバイリンガルになれるとして話を進めてきました。しかし、実は日本人は必ずしもそうではないようです。このわけを探るために、ここからまず、進化心理学の視点で、バイリンガルの起源に迫ってみましょう。
人類が言葉を話すようになったのは、ホモ・サピエンス(現生人類)が東アフリカで生まれた約20万年前と考えられています。この詳細については、以下の記事をご覧ください。
当時に生まれたホモ・サピエンスが1種類であるのと同じように、最初に発せられた言語も1種類だったでしょう。その後に、彼らはアフリカ内で拡散していき、約7.5万年前にはアフリカを出て、世界中に拡散していきました。そして、その地域や時代によって発音、語彙、文法が徐々に変化していき、人種と同じように、言語もどんどん枝分かれしていきました。このように、言語が多様化したことから、当時の部族社会では、他の部族と交流することは基本的になく、話す言葉はその部族の言葉に限られていたことが推測できます。つまり、そもそも私たちは、1つの言語しか話さないモノリンガルであることが分かります。
約1万数千年前に、農耕牧畜による定住革命によって、食料の貯蔵が可能になりました。そして、約1万年前頃には、その富から、様々な人たちが交流する文明社会が生まれていきました。すると、必然的に、言語が違う人とも話をする必要に迫られます。これが、バイリンガルを含むマルチリンガルの起源です。
約20万年間の言葉の進化の歴史のうち、そのほとんどがモノリンガルであるに対して、バイリンガル(マルチリンガル)が生まれたのはたかだか1万年前です。私たちが当たり前のようにバイリンガルになるためには、進化の歳月があまりにも短すぎます。つまり、私たちの脳は、もともとモノリンガル仕様であることが分かります。これは、前回(2023年9月号)でもご説明した、言葉の学習には許容量があることを説明することができます。