連載コラムシネマセラピー

私たちの身近にある映画、ドラマ、CMなどの映像作品(シネマ)のご紹介を通して、コミュニケーションメンタルヘルスセクシャリティを見つめ直し、心の癒し(セラピー)をご提供します。

【3ページ目】2024年2月号 映画「かがみの孤城」【その3】この城が答えだったんだ!-不登校への学校改革「かがみの孤城プロジェクト」

これからの中学校に必要な機能とは?

こころたちが城に通うようになったのは、願いを叶えるという目的がある、先に鍵を見つけられるかという評価がある、ほどほどに仲良くなれるという距離感があるからであることが分かりました。そして、これらの仕組みは、学校にはないことが分かりました。

これを踏まえて、特にこれからの中学校はどう変わればいいでしょうか? 私たちの現実の世界で、「かがみの孤城」のような中学校をどうつくることができるでしょうか? ここから、「かがみの孤城プロジェクト」と称して、これからの中学校に必要な機能を主に3つご提案します。

①学校に行く目的を意識させる―自我を育む

1つ目の機能は、学校に行く目的を意識させることです。その1でもご説明した通り、小学校までは「親に言われるから」「友達に会えるから」という理由で、学校に行っていました。しかし、中学校からは、これだけではなく、学校に行く目的を自分で納得する必要があります。これは、自分は何を学んでどうなりたいかという自我を育みます。

そのための具体的な取り組みを主に3つあげてみましょう。

a.ビジョンを共有する

学校では、従来から「将来の夢」を書かせることはよくあります。ただ、これだけで終わらせないことです。その夢の実現のためのプロセスを具体的に示し、話し合って共有する必要があります。

1つ目は、ビジョンを共有することです。これは、大人になったらどうしたいか、どうなりたいか、つまりどうやって生きていきたいかを本人、家族、そして学校が定期的に話し合っており、それを共有していることです。また、学校に行く一番の目的は、なるべく偏差値の高い高校や有名な大学に進学するためではないことも共通認識とする必要があります。その一番の目的は、先ほども触れましたが、大人になって社会で自分が望むように生きていくためです。その結果として、偏差値の高い高校や有名な大学に進学する必要が出てくることはあります。これは、その2でご紹介した家庭でのタイムマシンクエスチョンに通じます。

ちなみに、プロスポーツ選手、アイドル、ユーチューバー、ゲームクリエイターなどなかなかなれない職業を言ってきたら、どうしましょうか? その夢は夢で支持しつつも、実際になれる人の数や知名度による収入差を示し、なれなかった時のバックアップのための現実的な職業も考えてもらうことです。

思いつかないと言ったら、どうしましょうか? その2でもご説明した通り、いったん本人の強み(リソース)の再確認をして、自尊心や自信を高めます。そして、「やってもいい職業」「嫌いじゃない職業」と言い換え、ハードルを下げて、とりあえず何かの職業を言いやすくすることです。そして、その職業を「仮ビジョン」とすることです。大事なことは、何でもいいからまずビジョンを描くことです。そうすれば、こころの願いごとが最後に変わったように、学校で出会う友達や先生との相互作用によって、仮ビジョンが最終ビジョンに変わっていく可能性を見出せます。逆に、仮ビジョンすらなければ、学校に行く目的を見失ってしまい、最終ビジョンを育むチャンスを逃してしまいます。

b.どれだけ学ぶかの自由を与える

小学校の教育は、社会で生きていくために必要なものばかりです。一方、高校の教育は、義務教育ではなく、何をどれだけ学ぶかの選択の自由があります。その間の中学校の教育は、現代の情報化社会では必ずしも生きていくために必要なものばかりではないのに、義務教育であるという建前のため、高校のような選択の自由がないです。自由があるとしたら、それは不登校という一択だけです。

2つ目は、どれだけ学ぶかの自由を与えることです。これは、本人のビジョンに合わせて、何をどれだけ学ぶかの多様性(自由)を認めることです。学びのトータルの時間を変えずに、そのバランスを選ばせるということです。もちろん、従来の標準的な各科目の授業時間数は基準として示しておけば、従来通りの教育を受けることもできます。

例えば、英語、国語、数学、理科、社会科の各科目の時間数の60%は必修としつつ、残りの40%は選択とすることです。すると、英語をもっと学びたいけど数学は必要最低限で良いという生徒は、数学の40%の時間を英語に回して、英語の授業時間数を増やすことができます。逆に、言語能力がもともと低い場合は、英語が負担になってしまうため、英語の40%の時間を国語に回して、日本語に専念することができます。

このプロセスで大事なことは、あえて生徒に選ばせることです。選べばそこに責任が生まれます。これは、学ぶことで責任感を持たせ、学校に行く動機づけを高めます。もともと決められたこととしてやらなければならないという心理(外発的動機づけ)から、自分で決めてやりたいという心理(内発的動機づけ)に変えていくことができます。

これは、本人の意思を尊重している点で、大人扱いです。そして、学校に行かないと得るものがないという点で、学校に行くことは義務ではなく権利であるという感覚になります。そして、学校で自分がどうしたいかという自我を育みます。

c.学ぶ責任を自覚させる

高校では、何をどれだけ学ぶかの自由があると同時に、その学びが期限内に達成されなければ、留年や中途退学という責任が負わされます。先ほどのように、中学校でもどれだけ学ぶかの自由(選択権)をある程度与えるなら、その選んだ責任が生まれると考えることができます。

3つ目は、学ぶ責任を自覚させることです。これは、学校に行かないことによる将来のリスクを説明するだけでは限界があります。義務教育であるだけに、やはり社会的な介入が必要になります。例えば、欠席日数が1か月を超えた時点で、教育委員会や専門医療機関での評価と定期的な心理カウンセリングを義務づけることです。その義務も果たさない場合は、親(養育者)に罰金を課すことです。親としても、罰金を取られたくないという大義名分から、本人に義務を守ることを促すことができます。これも大人扱いです。学校に行かないと面倒が起きて損をするという点でも、本人にその責任を自覚させることができます。

ちょうど、車がスピードを自由に出してはいけないという交通ルールがあるのと同じです。子どもが教育を受けないで自由にしていてはいけないという「ワークルール」を教える必要があります。教育を受けるとは、何かに取り組むこと(ワーク)であり、働く(ワーク)リハーサルをしているとも言えます。これは、日本国憲法に定められた三大義務のもう1つである「勤労の義務」につながります。交通ルールと同じように、この「ワークルール」も、罰金などのペナルティがあることで、ルールを守る責任を自覚させることができます。