【3ページ目】2025年1月号 映画「クワイエットルームにようこそ」【その3】実はこれが医療保護入院を廃止できない諸悪の根源だったの!?―扶養義務
その義務感に絡まる諸悪の根源とは?
医療保護入院が必要とされてしまう現実的な理由は、権利として必要だと家族が思っているから、家族の義務として必要だと社会が思っているから、そして家族の義務として必要だという社会に国が合わせているからであることが分かりました。さらに、この義務感に絡まる、ある決定的な「事情」があります。それは、明日香のように関係が希薄になっている家族をも巻き込みます。
それは、扶養義務です。扶養義務とは、扶(たす)け養う務め、つまり、家族は、経済的に自立できない家族の一員を経済的に援助する義務が法的にあるということです。つまり、家族の誰かが精神障害者となり、入院などの治療をして経済的にも自立してくれなければ、最終的にはそのツケを家族が支払わなければならないことを意味します。家族は助け合わなければならないというモラルや社会的な圧力だけでなく、法的なお金の問題も絡んできます。それが薄々気になっているからこそ、家族の同意にとらわれてしまうのです。
つまり、いくら医療保護入院制度を廃止しようとしても、けっきょく扶養義務があるため、治療をしなかったら、そのしわ寄せが家族に来て、家族を追い詰めるだけになります。また本来、家族関係がもともと希薄なら、本人が問題を起こしていればいるほど、精神障害があってもなくても家族は関わりたくないはずです。しかし、扶養義務によって無理やり最終的な負担を強いられると思うために、逆説的にも家族は関わらずにはいられなくなるのです。この状況は、さらなる家族関係の悪化を招きます。これは、扶養義務の呪縛と言えます。
実際に、2012年に人気お笑い芸人の母親が生活保護を受給していたことが明るみになり、「不正受給」バッシングが巻き起こりました。この世論から、2013年には生活保護法が改正され、扶養義務者に対する通知義務と報告請求の規定が新設され、国による家族への扶養圧力が強化されてしまいました。これは、「家族と絶縁」という形を取った明日香も逃れられないことをほのめかしています。
このように、医療保護入院を廃止できない諸悪の根源が厳然と立ちはだかっているのです。
>>【その4】だから家族のつながりにとらわれてたんだ!だから人権意識が乏しかったんだ!―「直系家族病」
参考文献
*6 「ルポ・収容所列島 ニッポンの精神医療を問う」p.108:風間直樹、東洋経済、2022