【1ページ目】2025年1月号 映画「クワイエットルームにようこそ」【その3】実はこれが医療保護入院を廃止できない諸悪の根源だったの!?―扶養義務
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・家族の権利
・家族の義務
・保守政党
・扶養義務者
・家制度
・家督相続
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前回(その2)は、医療保護入院制度の問題点を明らかにして、強制入院ビジネスの不都合な真実に迫りました。これだけ問題点が明らかなのですから、今後にこの制度の廃止は容易でしょうか? 現実は、まだ厳しいです。どういうことでしょうか?
今回(その3)は、映画「クワイエットルームにようこそ」を通して、逆に医療保護入院が必要とされてしまう現実的な理由を明らかにします。そして、医療保護入院が廃止できない諸悪の根源を突き止めます。
逆になんで医療保護入院制度は必要とされてしまうの?
まず、医療保護入院が必要とされてしまう現実的な理由を、家族、社会、国の3つ立場から迫ってみましょう。
①権利として必要だと家族が思っているから
その2でも触れましたが、母親と絶縁していた明日香のように、関係が希薄になっている家族は増えています。一方で、関係が希薄になっていない家族はいまだに多いです。例えば、「ブルジョア部屋」(一泊2万円)に5年間入院しているサエちゃんがそうでした。
このような家族は、特に親子関係において、子どもは成人しても親の言うことを聞くべきであり、困ったら親を頼るべきであると考えます。つまり、親は子どもを良くも悪くも、「子ども扱い」し続けます。そして、その子どもに問題が起きたら、親が解決すべきであると考えます。
1つ目の理由は、家族(親)が自分に責任があり、権利として必要だと思っているからです。分かりやすく言うなら、子どもは親の「体の一部」です。よって、強制入院させるかどうかを決めるのは親の権利である、だからこそ強制入院に家族の同意を得るのは当然と考えます。そして、入院費を支払うのも当然の義務と考えます。まるで、自分のことを決めるかのように、子どもの強制入院に介入します。だから、退院についても、家族が慎重になれば、その意向が反映され、長期化してしまうのです。
逆に、医療保護入院制度が廃止されたら、どうなるでしょうか? 例えば、映画に登場していた摂食障害の患者たちのほとんどは、入院できなくなります。入院するとしても、身体的な危機を脱するのが主な目的となり、欧米並みの短期間になるでしょう。すると、たいていは同居して、家族が家で抱え込むことになります。「子どもは親の言うことを聞く」はずなのに、もちろん摂食については言うことを聞きません。親は、「手に負えない」と思い、けっきょく家族が困るという事態を招きます。
ちなみに、昨今は、成人したひきこもりの子どもに手を焼いた親が、「引き出し屋」(民間救急会社)に依頼して、精神科病院に「発達障害」の診断で医療保護入院させるケースもあるようです(*6)。