【1ページ目】2025年1月号 映画「クワイエットルームにようこそ」【その4】だから家族のつながりにとらわれてたんだ!だから人権意識が乏しかったんだ!―「直系家族病」
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・家族システム
・エマニュエル・トッド
・地政学
・権威主義
・不平等
・個人主義化
・情報化
・硬直化
・ 文化進化
・文化結合症候群
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前回(その3)、逆に医療保護入院が必要とされてしまう現実的な理由は、強制入院への家族の同意が権利であり義務であると家族、社会、そして国がとらえてしまっているからであることが分かりました。そして、医療保護入院が廃止できない諸悪の根源が扶養義務であることを突き止めました。それでは、この扶養義務をはじめ、そもそもなぜ私たちはこれほどまでに家族のつながりにとらわれるのでしょうか? そして、なぜ私たちは人権意識が乏しいのでしょうか?
今回(その4)は、映画「クワイエットルームにようこそ」を通して、新しい学問である地政学の視点から、これらの疑問を解き明かします。そして、日本ならではの根深い国民性を「直系家族病」と名付け、文化結合症候群としてとらえ直します。
日本人の人権意識はどんだけ低いの?
まずは、この映画で、日本人の人権意識の低さを描いたシーンをいくつか紹介します。今回、注目するのは、主人公の明日香と同棲していた放送作家の鉄雄です。彼は、明日香の「自殺未遂」騒動で、大事な企画会議をドタキャンしてしまいました。事情が事情なだけに釈明できないなか、なんとその罰ゲームとして、彼はその後の会議中に番組の企画でいきなり頭に布袋をかぶせられて目隠しのまま、拉致される形で成田空港に直行し、ミャンマーの奥地に連れて行かれます。まるで映画に出てくるテロリストによる誘拐のワンシーンのようです。
そして、明日香が入院している精神科病院のホールのテレビに、「超緊急企画!会議バックレ作家、焼畑鉄雄、ミャンマー少数山岳民族R族の村にて、肩にオウムを乗せ、ファッションキャンペーン強行命令!行け!焼畑上等兵!肩にオウムを乗せて行け!」という興奮気味のアナウンスが流れ、鉄雄が映し出されるのです。そして、それを見ている患者たちみんながお腹を抱えてげらげら笑い転げるのです。
これは、1990年代から2000年代前半にかけて大ヒットした某バラエティ番組を彷彿とさせます。今で言うリアリティ番組の先駆けだったわけですが、拉致や監禁が定番でした。当時、人権侵害は精神科病院の中だけではなかったのでした。そして、この状況は、げらげら笑っている患者たち自身の境遇に重なり、皮肉めいています。しかし、つい最近まで、この患者たち(医療保護入院)と同じように、日本人には見慣れた光景として、問題視されなかったのでした。
明日香が医療保護入院を同意したことについて問いただした時も、鉄雄は「だっておれ基本、言われるがままじゃん」と開き直っています。彼は、明日香の人権よりも、医者などの「上(権威)に逆らわない」ことを選んでいます。これは、日本人の人権意識の低さをよく描いています。
それでは、なぜ日本人の人権意識は低いのでしょうか? 実はこれは、家族のつながりにとらわれることと深く関係しています。どういうことでしょうか?
次に、世界の国々の家族の形と国民性の関係から、この答えを導いてみましょう。