【3ページ目】2025年1月号 映画「クワイエットルームにようこそ」【その4】だから家族のつながりにとらわれてたんだ!だから人権意識が乏しかったんだ!―「直系家族病」

②父系家族

大きく2つに分類した家族システムのもう1つは、父系家族です。これは、先ほどの平等主義核家族から変わっていったタイプです。これをさらに古いタイプと新しいタイプの2つに分けて、その特徴をまとめてみましょう。なお、母系家族については、数が極めて少ないために、この記事の分類には入れていません。

a.直系家族

約5千年前に最初の文明(メソポタミア文明)が、農耕牧畜革命と同じ「肥沃な三日月地帯」(現在のイラク付近)で誕生しました。当時、人口が増えていったことで、持てる土地は限られていき、争いも増えていきました。そのため、親は、土地や家の相続先を子ども1人だけに絞り、しかもその1人を一番年上の男子(長男)としました。そして、家(財産)を守るために、長男は結婚してもそのまま家にとどまるようになりました。

1つ目は古いタイプの父系家族、直系家族です。これは、子ども(長男)が成人して結婚してさらにその子どもが生まれても、三世代で同居し続ける家族構成です。他の子ども(次男以下の息子)たちは結婚して家を出て、親が持っている限られた農地を部分的に借りる形(地主小作関係)で集約的な農作業をいっしょに行いました(*10)。一方で、娘たちは他の家族の妻(嫁)になります。つまり、子どもは、成人しても、けっきょく親(娘は義理の親)といっしょにいることが多いため、親の言うことを聞く必要があります。もちろん、親は家長であるため、子どもにいろいろ口出しして、けがや病気などで働けなくなったら養う必要(扶養義務)があります。逆に、親が年老いたら子どもが介護します。つまり、このタイプの家族システムでは、家族にとらわれます。そして、この家族のあり方はその社会のあり方に発展し、権威主義の文化を生み出します。

また、兄弟の序列が強く意識され、不平等を受け入れる文化が根付きます。相続先に娘は入っていない点で、必然的に女性差別も生まれます。こうして、貧富の差ができて、社会が階層化された封建社会が生まれました。この社会では、相続への執着が強いため、継承することに重きが置かれ、家族の伝統やしきたりに縛られ、発想が保守的になります。

このタイプの国は、日本、韓国、北朝鮮などの東アジアと、ドイツ、スウェーデン、ノルウェーなどのヨーロッパの東側や北側の一部の国です。

ちなみに、江戸時代の日本の識字率が世界で断トツのトップだったのは、資産(相続)だけでなく、読み書きなどの文化資産も継承する文化が根付いていたからであると説明することができます。

b.共同体家族

約4千年前から、当時の中国でも直系家族が広がっていきました。ところが、紀元前4世紀頃に、モンゴルの遊牧民がやってきたことで、中国の家族システムは再び変わっていきました。そのわけは、彼らは軍隊(騎馬隊)でもあったため、兄弟が横並びになり、一致団結していたからです(*8)。

2つ目の新しいタイプの父系家族、共同体家族(外婚型共同体家族)です。これは、子ども(息子)たちが成人して結婚してさらにその子どもが生まれても、家を出ずに全員で親と同居する家族構成です。娘たちは、結婚相手の夫の家で同居します。家族全員で農作業をいっしょにするのは直系家族と同じですが、さらに家族全員でいっしょに暮らす点が違います。そのため、けがや病気などで働けなくなったら、目の前にいるわけですから必ず養います。これは扶養義務というよりは、当然のことになります。大家族であることから、その人数を束ねる父親の権限は強くなります。この家族のあり方はその社会のあり方に発展し、強い権威主義の文化を育みます。

また、いっしょに暮らしているわけなので、当然相続も平等になります。これは、息子たち(男性)同士の平等主義の文化が根付きます。一方で、娘たちは、相続先に入っていないうえに、結婚相手の兄弟たちともいっしょに暮らすなかで立場的には弱く、女性差別が大きくなっていきます。

このタイプの国は、中国、ロシア、ベトナム、キューバなどです。まさに、もともと共産主義圏の一党独裁(個人崇拝)の国が当てはまっています。

なお、アラブ諸国などのイスラム圏も共同体家族です。ただし、いとこ婚が30%~50%と極めて多いという独特の特徴があり、内婚型共同体家族として区別されています。このわけは、やはり砂漠が多く水資源が乏しいことで、略奪などによって生死がかかっているため、なるべく信頼できる身内(部族)で固まろうとするからです(*9)。彼らの権威は、言うまでもなくイスラム教です。そして、娘たちはいとことして最初から許嫁になっている点で様々な制限をされてしまい、女性差別が最も深刻になっていることも分かります。

★グラフ1 家族システムの起源

ちなみに、イギリスが最も古い絶対核家族のままであるのは、島国であり、次々と新しい家族システムができていった「肥沃な三日月地帯」(現在のイラク付近)や中国などのユーラシア大陸の中心から遠く離れていて、そこで生まれた新しい文化がなかなか辿り着かなかったからであると説明できます。また、ヨーロッパの西側の国々が2番目に古い平等核家族のままであるのも、同じように説明することができます。ドイツ、スウェーデン、ノルウェーなどのヨーロッパの一部の国については、平等主義核家族から直系家族には変われたのですが、その遠さからその後に共同体家族までは変わり切れなかったと説明することができます。日本、韓国、北朝鮮などの東アジアも同じように説明することができます。

このように、方言と同じく、中心から離れた地域(周辺地域)ほど、古い文化(保守性)が同心円状に残るという法則は、周辺地域の保守性原則と呼ばれています(*7)。

参考までに、人類の起源地であるアフリカは、核家族、直系家族、共同体家族、さらには一夫多妻制が混在しています。また、アメリカは、同じく絶対核家族であるイギリスや他の英語圏とは違い、居住できる国土が広すぎることから、公的扶養の文化が根付きにくいことが指摘されています(*9)。

★グラフ2 家族システムのタイプ