【3ページ目】2025年2月号 テレビドラマ「説得」親が輸血だめなら子どももだめ!?―医療ネグレクト

輸血拒否に医療はどうすればいいの?

健が死んで1か月後、担当していた医師が、荒木に再会し、言います。「心臓外科が専門なんですが、手術しても社会に復帰できない子がたくさんいるんです。宗教的に言えば、神がそういうふうにつくったとしか・・・それを手術して、神の意思に反してるんじゃないかって気がする時も。そう言いながらも、やはり今手術しないと死んでしまうと言えば、やはり・・・あの直後、うちの病院では、今後(子どもには)承諾が取れなくても、医師の判断で輸血をするという決定をしました」と。

実際に、2008年に日本輸血・細胞治療学会と日本小児科学会は合同でガイドラインを出しました。そして、2022年と2023年に厚労省は、このガイドラインを踏まえて、宗教的虐待と医療ネグレクトに関する指針を出しました(*3)(*4)。なお、医療ネグレクトとは、医師が必要と判断した医療を親が子どもに受けさせないことです。

★表1 宗教的輸血拒否に関するガイドライン

このガイドラインでは、年齢を3つの時期に区切り、場合分けをしています。まず、18歳以上は当然ながら、本人の意思が尊重されます。逆に、14歳以下は、拒否が親や本人にあったとしても、なるべく輸血しないとしつつも、最終的には輸血は可能になります。注目すべきは、15歳から17歳の年齢です。本人と親がどちらも拒否した場合のみ、輸血は不可になります。例えば、長女は「教えを守れば天国に行ける」と確信していたので、中3で15歳になっているとすると、彼女に輸血することはできません。逆に、どちらかしか拒否しなかった場合は、なるべく輸血しないとしつつも、最終的には輸血は可能になります。

なお、15歳で分けている理由は、15歳が民法で遺言の効力が生まれる年齢と定められているからです。また、知的障害などによって医療に関する判断能力がない場合は、14歳以下と同じく、輸血は可能になります。

さらに、輸血を含めて治療が親によって阻害される場合は、児童相談所に虐待通告し、児童相談所で一時保護のうえ、家庭裁判所による親権停止の審判を受けて、治療を行うことができます。緊急性がある場合は、審判確定までの間に権利を保護する暫定的な処分(保全処分)を申し立てることで、すぐに効力が発生する措置がとられます。

実際に、2021年に親権停止が認められたのは107件で、医療ネグレクトが原因とされるものは21件でした(*1)。また、輸血拒否をする教団(「エホバの証人」)の広報によると、2017年から2022年の5年間で、親権停止などの法的措置が取られたのは13件でした(*1)。

「説得」とは?

このドラマは、親の信仰によって子どもの命が救えなくなるという、宗教と医療の衝突を生々しく描いていました。そして、信仰とは、妄想と同じく不合理で訂正不能であるため、いくら理屈をこねたり情に訴えたりして説得しようとしても、納得が得られないものであることも分かりました。

学会のガイドラインや厚労省の指針のおかげで、親の信仰によって子どもの命が救えなくなることはなくなりました。しかし、まだ問題が残っています。それは、命にかかわる急性疾患とは違い、すぐに命にかかわらない慢性疾患や、担当した医師が言っていたように手術しても必ずしも治るとは限らない疾患についてです。例えば、実際に、子どもが精神的に不調でも親が偏見やいわゆる根性論から児童精神科を受診させないケースは、時々見受けられます。このような場合は、司法が親権停止の判断を出すのが難しくなります。

つまり、どこまでが医療ネグレクトでどこまでが親の裁量とするかという線引きの問題がまだ残っています。これは、医療を含む子育て全般にも言えることです。この線引きのために、信仰を押し付けるのはもっての外ですが、経験則や自分の思い入れ、思い込みではなく、アカデミックな視点が必要です。それは何より、子どもの不利益にならないようにするためだからです。

これからは、医療だけでなく、子育てにも倫理観が必要な時代になってきます。これは、医療倫理を超えて、子育てのあり方にも広がる「子育て倫理」と呼べるでしょう。

なお、今回は治療をさせない親がテーマでしたが、逆に治療をさせすぎる親については、以下の記事をご覧ください。


>>【治療をさせすぎる親】

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参考文献

*1 宗教と子どもp.106、p.118、p.122、pp.124-125、pp.149-153:毎日新聞取材班編、明石書店、2024
*2 宗教の起源p.246:ロビン・ダンバー、白揚社、2023
*3 宗教の信仰等に関係する児童虐待等への対応に関するQ&A:厚生労働省子ども家庭局長通知、2022
*4 宗教の信仰等を背景とする医療ネグレクトが疑われる事案への対応について:厚生労働省子ども家庭局長、2023