【1ページ目】2025年4月号 海外番組「セサミストリート」【続編・その2】じゃあなんでコミュニケーションの障害とこだわりはセットなの?―共感

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・知的障害
・社会的コミュニケーション症
・強迫性パーソナリティ障害
・情緒不安定性パーソナリティ障害
・超女性脳
・依存性パーソナリティ障害
・共依存
・折れ線型経過
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前回(その1)、自閉症の主な症状はコミュニケーションがうまくできないこと(社会的コミュニケーションの障害)とこだわりが強すぎること(反復性)であることが分かりました。そして、それぞれの脳機能は、共感性が低いこととシステム化が高いことであることが分かりました。さらに、その原因は、胎児期に男性ホルモンが多すぎていたからであるという有力な仮説(胎児期アンドロゲン仮説)をご紹介し、自閉症は超男性脳であることをご説明しました。


>>【続編・その1】

それでは、そもそもなぜ自閉症はコミュニケーションの障害とこだわりがセットで出てくるのでしょうか? また、定型発達においては、男の子よりも女の子の方が言語や心の理論の発達が早いです。それは、そもそもなぜなのしょうか? さらに、自閉症は最初から言葉の遅れがあるのが典型的なのですが、いったん話していた言葉を途中から話さなくなるタイプもあります。なぜこのような奇妙な経過を辿るのでしょうか?

今回(その2)も、海外番組「セサミストリート」のジュリアという自閉症のキャラクターを取り上げ、さらにある仮説をご紹介します。この仮説はこれらの謎を説明できてしまうと同時に、これらの謎はこの仮説の根拠にもなります。

その仮説とは、共感性とシステム化は、それぞれ独立した脳機能でありながら、トレードオフ(一得一失)の関係になっているということです(*1)。これは、ゼロサム説と呼ばれています。ゼロサムとは、一方が増えた分、他方はその分減って、総和(サム)は一定(ゼロ)であるという意味です。

だからコミュニケーションの障害とこだわりがセットなんだ

ジュリアは、中等度の社会的コミュニケーションの障害と中等度の反復性の両方の症状が揃っており、典型的な自閉症です。実際の臨床でも、重度であればあるほど、両方の症状がほぼいっしょに見られます。この現象は、先ほどの仮説から説明することができます。

まず、この2つの脳機能の総和を100とすると、ジュリアは共感性20とシステム化80と表されます。そして、重度の場合は、共感性10とシステム化90と表されます。ここで、総和が100を超える病態を仮定してみましょう。例えば、共感性50(平均)とシステム化90のような重度のこだわりだけある病態です。しかし、実際の臨床でこのような病態は見かけません。つまり、総和が100を超える病態が存在しないことは、この仮説の根拠になります。

それでは、逆に共感性10とシステム化50(平均)のような重度のコミュニケーションの障害だけの病態はどうでしょうか? 実は、この病態は、知的障害の診断でよく見かけます。つまり、総和が100を下回る場合は、全般的な脳機能の低下として、自閉症とは無関係に起こりうるため、この仮説には当てはまりません。

一方で、症状が軽度の場合、片方だけはよく見かけます。例えば、こだわりが軽度で日常生活に困るほど目立たず、コミュニケーションの障害だけが軽度でやや目立つというケースは、自閉症ではなく社会的コミュニケーション症と診断されます。逆に、コミュニケーションの障害が軽度で社会生活に困るほど目立たず、こだわりだけが軽度でやや目立つというケースは、自閉症ではなく強迫性パーソナリティ障害と診断されます。これら2つのケースとも、共感性30とシステム化70と表され、総和が100となり、この仮説に当てはまります。

以上より、この仮説によって、こだわりが強くなればなるほど、連動してコミュニケーションがうまくできなくなることが分かります。だからこそ、コミュニケーションの障害とこだわりはセットになるわけです。

以上から、この仮説に従い、共感性を横軸Xとしてシステム化を縦軸Yとしてグラフ化すると、グラフ1のように、X + Y = 100と表されます。そして、定型発達の男性は共感性40とシステム化60、女性は共感性60とシステム化40と表されます。重度の自閉症は、左上の端っこに位置づけられます。社会的コミュニケーション症と強迫性パーソナリティ障害は、やや左上の位置に位置づけられます。

★グラフ1 脳機能のゼロサム説