【2ページ目】2025年7月号 NHKドラマ「心の傷を癒すということ」【その1】だから「地震ごっこ」をするんだ!-子どものPTSD

何で地震ごっこをするの?-子どもの演じる心理の発達


地震ごっこを見た校長先生は「くだらん遊び考えやがって」「おまえら!どんな神経しとんねん!」「ここにはな、地震で悲しい思いをした人ばっかり集まっとんねんぞ!」と怒り出します。すると、安先生は「地震のショックがあまりにも大きくて、子どもたちも受け止めきれてへんのです。こうやって地震ごっこをすることで、何とか気持ちの整理をつけようとしてるんやと思います」と校長先生に説明します。

地震ごっこ(再演遊び)は、不謹慎だという大人の視点に対して、子どもが自らトラウマを乗り越えるためにやっているという治療的な視点です。確かに、そう考えれば実際に治療がうまく行くわけなのですが、なぜそうなのでしょうか? つまり、なぜ子どもは地震ごっこを自然とするのでしょうか? また、トラウマを乗り越えるためにやるのだとしたら、逆になぜ大人はやらないのでしょうか?

この謎を解くために、ここで、発達心理学の視点から、子どもが演じる心理をどう発達させるのかに注目してみましょう。大きく3つの段階に分けられます。

①目の前の人の動きをそのまま演じる―まね遊び

赤ちゃんは、生後6か月を過ぎると、「バンザイ」「バイバイ」「オツムテンテン」などの親の動きをまねするようになります。そして、これを遊びとして楽しむようになります。

1つ目は、まね遊びです。これは、目の前の人の動きをそのまま演じていると言い換えられます。この時、赤ちゃんの脳内では、相手の動きのインプットと自分の動きのアウトプットを「鏡」(ミラー)のように映し出して同調させる神経ネットワーク(ミラーニューロン)が発達します。さらに、相手の動作と同時に相手の表情(気持ち)も脳内に「鏡」(ミラー)のように映し出し同調させて、まねと共感する能力がともに発達していきます。このように、まねをすることはミラーリングと呼ばれています。

この詳細については、以下の記事をご覧ください。


>>【ミラーリング】

②目の前にいない人の動きを演じる―ふり遊び

幼児は、1歳後半から積み木を電話に見立てて親が電話をしているしぐさをしたり、葉っぱを皿に見立てて何かを食べるふりをしたりするようになります。そして、これを遊びとして楽しむようになります。

2つ目は、ふり遊びです。これは、目の前にないものを小道具で見立てて、目の前にいない人を演じていると言い換えられます。この時、幼児は、ものや状況をジェスチャーという記号(象徴)に置き換えて、目の前にそれがなくてもそのジェスチャーによって認識する能力が発達していきます。これは、象徴機能と呼ばれています。

この詳細については、以下の記事をご覧ください。


>>【象徴機能】

③周りの人とのかけ合いによって演じる―ごっこ遊び

子どもは、3歳になると、親やお友達といっしょに、おままごと、買い物ごっこ、お医者さんごっこをするようになります。4歳以降、自分がつくったストーリーで、オリジナルのキャラクターを演じて遊ぶようになります。特に男の子は、いわゆるチャンバラ(斬り合い)、撃ち合い、プロレスなどの戦いごっこもするようになります。

3つ目は、ごっこ遊びです。これは、周りの人とのかけ合い(相互作用)によって演じていると言い換えられます。この時、子どもは、相手には相手の心があると分かるようになり、周りと助け合ってうまくやっていく能力が発達していきます。これは、心の理論(社会脳)と呼ばれています。

この詳細については、以下の記事をご覧ください。


>>【心の理論(社会脳)】

以上より、子どもが地震ごっこをする理由は、ごっこ遊び(現実世界のコミュニケーションの再現)のレパートリーの1つとして、地震に対して助け合うためのコミュニケーションの練習をしようとしているからと言えます。この点で、実は大人も「地震ごっこ」をしています。それが避難訓練です。逆に言えば、地震ごっこは、子どもなりの「避難訓練」であると言えるでしょう。


>>【その2】地震ごっこは人類進化の産物だったの!? だから楽しむのがいいんだ!-プレイセラピー