【2ページ目】2026年1月号 NHKドラマ「心の傷を癒すということ」【その4】そもそもなんで多重人格は「ある」の?-進化精神医学から迫る解離性同一症の起源

「心の傷を癒すということ」は「生き延びるということ」

進化の視点でとらえ直すと、安先生が言うように、多重人格が「ある」のは、「弱いから」ではなく、子どもが「生き延びる方法」(生存戦略)として「生きる力が強い」と言えます。これは、発達心理学の視点では可塑性、進化精神医学の視点では適応度と言い換えられます。つまり、安先生の言葉は、小さい子どもの時の片岡さん自身だけでなく、私たちの祖先の人類にも当てはまることだったのです。

この点で、このドラマのタイトルである「心の傷を癒すということ」とは、私たち人類が「生き延びるということ」でもあると言えるのではないでしょうか?

なお、多重人格の治療については、以下の記事をご覧ください。


>>【解離性同一症の治療】

参考記事

ちなみに、虐待を含む不適切な養育(マルトリートメント)における子どもの愛着の反応パターンとしては、今回の「知ってるふり」(多重人格)だけでなく、「馴れ馴れしいふり」(脱抑制型対人交流症)や「よそよそしいふり」(反応性アタッチメント症)も挙げられます。これらも、乳幼児の生存戦略であると言えます。

多重人格は、脱抑制型対人交流症や反応性アタッチメント症と比べて、幼少期は目立たず潜在しており、その後に顕在化する特徴があります。そして、これらは、その3でも触れたストレンジ・シチュエーション法(*2)における、以下のタイプと関連しています。

★表1 愛着の反応パターン


>>【脱抑制型対人交流症】


>>【反応性アタッチメント症】

参考文献

*1 稀で特異な精神症候群ないし状態像、p80:中安信夫、星和書店、2004
*2 乳幼児のこころpp103-104、遠藤利彦ほか、有斐閣アルマ、2011