【4ページ目】2013年1月号 映画「告白」【その1】なんでいじめるの?―同調の心理
いじめ加害者の心理―精神的伝染(感応)
教室でみんなが掃除をしている中、ある男子が少年Aに牛乳パックを投げつけ、「お前、全然反省してねえだろ」と言います。少年Aは何も言わずに立ち去ります。すると、ある女子がニヤリとします。次のいじめのターゲットが決定した瞬間です。そして、クラス全員が動き出すのです。
少年Aは、成績トップで優秀でしたが、冷めていてクラスのノリに一切付き合わない浮いた存在でした。つまり、スクールカーストで下位の身分とされてしまっていました。そこに、いじめを正当化するのに、「人殺し」というとても都合の良い理由ができたのです。このように、下位の身分は、理由付けによって、仲間外れから仲間外し、つまり、いじめのターゲットにされるリスクが高まります。
同調性は、二面性があります(表1)。教室のノリのように、集団が共通の目標に向かって同じ方向に向かうエネルギーを生みだす一方、同時に、同じ方向を向かない者を、ノリをブチ壊す共通の「敵」と見なしてしまう危うさもあります。クラスが少年Aに望んでいたことは、その場に存在しないか、または下位の身分として卑屈にしていることだったのです。
さらには、何(誰)かを共通の「敵」に仕立て上げるための「正当」な理由を誰かがでっち上げ、それを集団のメンバーが次々と信じ込むという精神的伝染が起こります(感応)。この思い込みは、戦時中の日本軍の特攻隊が「喜んで」殉死していく心理や、現代のカルト宗教集団が「アルマゲドン」を唱えることで不安を煽る「洗脳」「マインドコントロール」の心理に重なります。また、逆に、同調や感応のエネルギーによって、リーダー的な存在は、「カリスマ」「教祖」として、持ち上げられ、崇拝されることもあります。
そして、最終的に、この「敵」となったターゲットは、生け贄として「処刑」されてしまうようになります(スケープゴート現象)。この現象は、中世ヨーロッパの魔女狩りに重なっていきます。

いじめ―ノリの「臨界点」
その後、すぐに「制裁ポイント集計表」「みんなどんどん制裁してね」「人殺しに天罰を!制裁ポイントを集めろ!!」という差出人不明のメールが出回ります。するとほぼ全員が競って、少年Aに対していじめを始めます。さり気なくぶつかることから、すれ違いざまに「死ね」と吐き捨て、ノートなどの持ち物に落書きをしたり、それらをゴミ箱にあからさまに捨てたり、教室の窓から投げ落したりもします。その度に、メーリングリスト上でポイントが更新されていきます。まさに、少年A対クラス全員という構図です。いじめは、参加者や同調する観客が多ければ多いほど正当化され、エスカレートしていきます。クラス全員のいじめという「処刑」を通して、クラスみんながいっしょに笑い転げて、クラスの一体感(集団凝集性)がさらに高まっていく様子が生々しいです。それは、まるでお祭り騒ぎです。
いじめとは、クラスメートたちの際限のないノリへの欲求が満たされなくなった瞬間、つまり、煮詰まって物足りなくなるという欲求不満に陥った瞬間に起こります。これは、集団のベタベタ感(集団凝集性)が強まりすぎて「臨界点」を超えることです。そして、このベタベタ感により、自分たちが思い付いた独自のルール(集団規範)が簡単にまかり通るようになります。