連載コラムシネマセラピー

私たちの身近にある映画、ドラマ、CMなどの映像作品(シネマ)のご紹介を通して、コミュニケーションメンタルヘルスセクシャリティを見つめ直し、心の癒し(セラピー)をご提供します。

【5ページ目】2014年4月号 映画「ミスト」【中編】どうやったら信じ込ませられるの?ーマインドコントロールのメカニズム

私たちが「マインドコントロール」に陥らないためには?

これまで、信じ込む心理のマイナス面として、マインドコントロールを詳しく掘り下げてきました。信じ込む心理は、囚われる心理(固執)でもあります。言い換えれば、それは、物事のとらえ方(認知パターン)です。それは、文化であり、価値観であり、伝統であり、信念であり、思想であり、信仰(宗教)であり、そしてマインドコントロールでもあるということです。私たちは、何らかの物事のとらえ方(認知パターン)の傾向があり、ある意味では、その環境によって長い年月をかけて多かれ少なかれ何らかの「マインドコントロール」が刷り込まれているとも言えそうです。問題は、その認知が宗教掛(が)かった独特なものになり、自分や周りが困っていないかどうかです(認知の偏り)。

それでは、そうならないようにするには、どうすれば良いでしょうか? その答えのヒントは、まさにマインドコントロールの危険因子から導き出されます。

まず、環境因子を考えてみましょう。閉鎖性の解決のためには、まずその環境から離れること、引き離すことです。つまり、私たちの職場に照らし合わせれば、閉鎖的な職場、特殊な職場であればあるほど、人材の入れ替わりも少なく、独特の職場の信念や文化(集団規範)が起きやすいということです。また、個々人においても、同じ職場に長くいればいるほど、その職場の文化(集団規範)に染まり、その後に他の職場に適応しづらくなります。時間的な閉鎖性のリスクが高まると言えます。対策としては、例えば、5年以上は同じ職場(部署)にい続けないようにするなどの意識を持つことです。

視野狭窄への対策としては、内情をオープンにして、外部の情報を適度に入れることです。一般的には、これはジャーナリズムの役割でもあります。私たちとしては、他の部署とのかかわりや勉強会への参加を積極的に行ったり、職場に様々な人材を受け入れ、それぞれのメンバーが複数の集団をまたいでいることです。そうすることで、考え方が相対化されて、絶対的な価値観に陥りにくくなります。

次に、個体因子である依存性、被暗示性、脆弱性などについて対策は、私たちが、それぞれの特性や問題点をまず自覚することです。

最後に、カリスマ的な人へ対応です。例えば口達者で断定的な人には、文書化させて根拠や証拠が残るようにする取り組みが重要です。

信じ込むことは私たちの本質

前月号の宗教の起源の心理や、今月号のマインドコントロールの心理を通して見えてきたことは、信じ込む心理は、私たち人間の本質であるということです。私たちは、1つの信念(認知)に囚われると、簡単に操られてしまうということです。ただ、信じ込むことが良くないと言っているのではありません。大事なのは、何を信じるか、どう信じるか、そしてそれらのバランスをどうとるかということです。

そのためには、主体的で多視的で俯瞰(ふかん)的な心のあり方が必要です。そして、疑ってみる心(懐疑心)や批判的思考(クリティカルシンキング)もバランスよく必要であるということです。つまりは、気付かないうちにマインドコントロールされるのではなく、気付きを高めて「セルフコントロール」することが大切であるということです。

今回は、マインドコントロールをテーマに、「なぜ信じ込む心理が沸き起こるのか?」という謎の答えを探ってきました。次回も引き続き、デヴィッドたちの運命の結末を通して、そもそも「なぜ信じ込む心理があるのか?」という最も根源的な謎の答えに迫っていきます。

最後まで、カーモディさんに逆らうデヴィッドたちは、果たして生き残れるのでしょうか?


>>【後編】なんで幻聴や被害妄想は「ある」の?―統合失調症の存在理由

参考文献

1)岡田尊司:マインドコントロール、文藝春秋、2012

2)石井裕之:カリスマ 人を動かす12の方法、三笠書房、2012