連載コラムシネマセラピー

私たちの身近にある映画、ドラマ、CMなどの映像作品(シネマ)のご紹介を通して、コミュニケーションメンタルヘルスセクシャリティを見つめ直し、心の癒し(セラピー)をご提供します。

【3ページ目】2014年4月号 映画「ミスト」【中編】どうやったら信じ込ませられるの?ーマインドコントロールのメカニズム

マインドコントロールにかかる心理

(2)個体因子―①依存性

これまでマインドコントロールにかかる心理の環境因子について整理しました。しかし、同じ環境でも、マインドコントロールにかかりやすい人とかかりにくい人がいます。この違いは何でしょうか? それは、個人差(個体差)です。ここからは、個体因子について考えていきましょう。

まず、カーモディさんの最初の信者となった緑色の上着を着た女性に注目してみましょう。怪物の襲撃に備えて、人々がそれぞれにてきぱきと動いている中、彼女は、カーモディさんが説教をするそばに付いて、何も考えられないかのように不安そうにしています。そして、怪物たちが襲撃した後には「彼女が言った通りになったわ」とカーモディさんの言うことを鵜呑みにしていきます。自分でどうすれば良いか判断することが難しく、主体性がありません。誰かの指示を待ち、強く言う人に染まりやすいのです。

このように、依存的な性格(依存性)はマインドコントロールの危険因子です。この性格は、従順で協調性が高いというプラス面があると同時に、受け身で流されやすいというマイナス面もあります。例えば、かつて冷戦時代に、軍人たちが敵国に洗脳(マインドコントロール)されたと世の中に衝撃を与えました。軍人は、屈強で精神的にも強そうに思われていたからでしょう。しかし、実は意外にも、軍人や体育会系の人はマインドコントロールにかかりやすいと言えます。その理由は、上官、上司、先輩の命令には絶対服従するために、自分の意見を抑える癖が身に付いているからです。これが逆に仇となっているのです。つまり、問題意識を持たない従順な人ほどかかりやすいのです。

さらに言えば、周りの働きかけに素直に従ってきた良家の子や温室育ちの子も同様です。かつて巨大なカルト宗教に、多くの高学歴エリートたちが入信し、犯罪まで行いました。この理由も、幼少期から言われるままに勉強ばかりして、主体的で柔軟な考え方をする癖が付きにくかった可能性が考えられます。視野が広がらず、心の拠りどころ(行動原理)が乏しかったかもしれません。そして、一度信仰という拠りどころにはまったら、それ以外の多様な価値観を受け入れることが難しくなってしまったのではないでしょうか? これは、幼少期から受験勉強という「トンネル体験」を強いた代償とも言えるかもしれません。さらに、国際的に見れば、集団主義的(依存的)な文化を持つ私たち日本人は、そもそもマインドコントロールにかかりやすい国民性なのではないかと思われます。

マインドコントロールにかかる心理

(2)個体因子―②被暗示性

デヴィッドたち数人のグループは、最後までカーモディさんの言うことを信じません。この理由は、信じ込みやすさにも個人差があるからです。先ほど心的外傷体験で触れたのは、環境因子による脳の書き換えの起こりやすさです。一方、個人差(個体因子)による脳の書き換えの起こりやすさもあります。言い換えれば、これは、暗示へのかかりやすさです。暗示とは、暗に示されたことへの信じ込みの強さです。例えば、占い、迷信、超常現象などをすぐに信じてしまう人です。このような人は、マインドコントロールにかかりやすい危うさがあります。

このように、暗示へのかかりやすさ(被暗示性)はマインドコントロールの危険因子です。精神科医療の現場で、全く効果のない薬を効果がとてもあると伝えて内服させると、患者によっては効果があります(プラセボ効果、偽薬効果)。これは、効く薬だという安心感や医師への信頼感が被暗示性に大きな影響を与えているからでしょう。前号で触れた「信じる者は救われる」という心理でオキシトシンが活性化されている可能性とも重なります。

この安心感や信頼感を生み出しているのが、共感性です。共感性とは、相手の気持ちを汲み取るのに長けていることです。この心理が高じて、相手から影響を受けやすくなってしまう、つまり被暗示性を強めていると思われます。さらに、相手の考えに感化して対応(共有)してしまう精神状態になることもあります(感応)。同調性や協調性との関係も深いです。これは、「みんな同じ、みんな仲良し」を重んじるゆとり教育を受けた世代の危うさでもあります。

暗示や感応は、誤った考えの思い込みが一時的な段階です。しかし、それが持続的な段階になれば、妄想と呼ばれます。

★表2 暗示、感応、妄想の違い

マインドコントロールにかかる心理

(2)個体因子―③脆弱性

さきほど触れたジムは、信者になる前、デヴィッドとのやり取りで、「大卒のあんたがおれより偉いわけじゃない」「おれをナメるな」と強がります。そして、自分の判断ミスで、ある青年を見殺しにしても「なんでもっと危険だって言ってくれなかったんだ」とデヴィッドのせいにします。彼の立ち振る舞いは、決して知的に高そうには見えません。スーパーマーケットにいたかつての彼の担任教師からも、「あんた兄妹揃って成績が悪かったわね」となじられています。また、強がりは弱さの裏返しです。彼には、心の余裕がなく、不安でいっぱいであることが分かります。このような人は、理性的に考えることができなくなり、カーモディさんのような強い人の言いなりになっていくのです。

このように、知的な制限低いストレス耐性による脆弱性はマインドコントロールの危険因子です。これは、知能の発達段階にある子どもについても同様です。

★表3 マインドコントロールの危険因子