連載コラムシネマセラピー

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【2ページ目】2019年7月号 映画「万引き家族」【後編】-親が万引きするなら子どももするの?【犯罪心理】

万引きをしないためにはどうすれば良いの?

「万引き」(反社会的行動)の遺伝を「なかったこと」にしたいのは、差別になる、不平等になる、懲らしめられなくなるという私たちの思いがあることが分かりました。そして、その思いの根底にあるのは、私たちはもともと「善」であり、「同じ」であり、「意思」があるという心理でした。ただし、これらの心理は、原始の時代の村で進化してきたものです。その村は、血縁関係でつながり、共通点が多く、お互いのことをよく知っていて、助け合って、信頼できる平等社会です。
一方、現代の国家ではどうでしょうか? 多様化して共通点が少なく、お互いのことをよく知らず、直接助け合っておらず、信頼できるか分からない格差社会です。私たちの心はほとんど原始の時代のままなのに、現代の社会構造(環境)があまりにも変わってしまっています。「万引き」(反社会的行動)の「芽」がより出やすくなっているように思えます。

だからこそ、私は、犯罪と遺伝の関係という「不都合な真実」を伝える必要があると思います。そして、その「真実」を踏まえてこその対策があると思います。それでは、万引きをしないためにはどうすれば良いでしょうか? 遺伝、家庭環境、家庭外環境に分けてそれぞれ考えてみましょう。

①遺伝-本人の特性を強みとして生かす-ストレングスモデル
家族団らんのシーンで、亜紀の気に入っている客が無口だったと聞いた信代は「あー男は無口なくらいがちょうどいいよ。おしゃべりはダメ」と言って、遠くから治を箸で指し、からかいます。すると、治は、「何?おれのこと呼んだ?」とツッコミを入れて、祥太とじゅりに手品を披露します。ここで分かるのは、治の良さは、おしゃべりでノリが良いこと、観察力があり器用であることです。これは、万引きの手際の良さから言うまでもありません。

その後、信代が罪を全てかぶったため、治は、罰を逃れました。しかし、定職に就くこともなく、一人暮らしをしているようです。治は、これで良いのでしょうか?

1つ目の対策は、もともとの本人の特性を強みとして生かすことです(ストレングスモデル)。治は、抽象的思考が苦手なため、相手の指示の意図や段取りが分からないです。よって、建築作業員や事務員などは向いていないと言えます。また、飽きっぽさから、信代がやっていたようなクリーニング工場での単純機械作業も向いていないでしょう。向いているのは、単純な接客など、対人的でその場のやり取りに限定した仕事でしょう。もちろん、知的障害が判明すれば、障害者枠就労も現実的でしょう。もちろん、治に反省を促すことはできます。しかし、すでにご説明した通り、抽象的思考が苦手なため、その反省は表面的で一時的でしょう。そもそも治には前科があるということが後に判明します。

このように、ポイントは、犯罪歴があり再犯リスクのある個人に対して、懲らしめとして社会から疎外して、ひたすら反省を促すのではありません(ソーシャルエクスクルージョン)。一定の制限は設けつつも、むしろ社会復帰をするリハビリテーションを促すことです(ソーシャルインクルージョン)。

行動遺伝学的に言えば、反社会性の「芽」が出てしまっていても、対極の社会性の「芽」には「水やり」をし続けることです。それは、社会への信頼と誇りを育むことです。これをしないと、けっきょく反社会性の「芽」が出たままで、行動化という「花」をまた勝手に咲かせるかもしれません。つまり、反社会性の「芽」が出てしまっている人にこそ、社会から疎外して放置するのではなく、またその「花」を咲かせないような予防介入をすることが重要になります(個別的予防介入)。

そもそも、「万引き」(反社会的行動)をする人たちだけが、その「種」を持っているわけではありません。私たち一人一人の心の中にも、量の差はあれ、その「種」を持っており、あるきっかけで「芽」が出てくるかもしれません。そう考えると、犯罪と遺伝の関係を受け入れても、差別になるという発想は出てこないでしょう。つまり、私たちは、もともと「善」でも「悪」でもないと冷静に理解する必要があります。

②家庭環境-親が子育てを勉強する-ペアレントトレーニング
信代がじゅりに洋服を買ってあげようとした時、じゅりから「叩かない?」「あとで、叩かない?」と繰り返し確認されます。その瞬間、信代は、じゅりの母親が毎回服を買った後に叩いていたことを確信し、「大丈夫、叩いたりしないよ」と優しく言います。じゅりの母親もまた夫からDVを受けており、じゅりの家庭では暴力がコミュニケーションの1つの形になっています。じゅりの母親は、体罰をしつけの一環としており、虐待の自覚がないようです。

2つ目の対策は、親が子育てを勉強することです。かつて大家族で、見守ってくれる周りの目がたくさんありました。そして、教えてくれる先輩の親がいました。しかし、現在は、核家族化が進んでおり、見守る目はあまりなく、ママ友はいたとしても、家にいっしょにいて教えてくれたり、助けてくれる先輩ママはなかなかいません。すると、子育てが独りよがりになってしまいます。それが、じゅりの家庭の暴力、治と信代の家庭の万引きです。このような反社会的モデルにならないという子育てのやり方をまず親が勉強する社会的な仕組み作りが必要です。例えば、自閉症やADHDをはじめとする発達障害で、療育に並んで早期に行われる親への心理教育(ペアレント・トレーニング)と同じです。

行動遺伝学的に言えば、反社会性の「種」を多く持っている可能性がある子どもにこそ、社会性の「種」への「水やり」を丁寧にする必要があることをまずその親が自覚することが重要になります(選択的予防介入)。

そもそも、「万引き」(反社会性)に限らず、私たちは、それぞれ違う「種」を持っています。生まれながらにして、私たちは、心も体も「不平等」です。ただし、生まれてから、教育や福祉によって、将来的になるべく不平等にならないような社会の仕組み作りをすることはできます。そう考えると、犯罪と遺伝の関係を受け入れても、不平等になるという発想は出てこないでしょう。つまり、私たちは、もともと「同じ」ではないと冷静に理解する必要があります。

③家庭外環境-社会とのつながりを持つ-社会的絆理論
刑事は、祥太から「学校って、家で勉強できない子が行くんじゃないの?」と聞かれて、「家だけじゃできない勉強もあるんだ」「(友達との)出会いとか」と答えています。その後、祥太は「国語のテストで8位になった」と喜ぶシーンもあります。祥太の人生が、大きく開けてきています。

3つ目は、社会とのつながりを持つことです(社会的絆理論)。祥太にとって、その初めての「出会い」は、駄菓子屋のおじいさんでした。さらに、学校に行くというかかわり(インボルブメント)や勉強や部活動をがんばるという目標(コミットメント)です。

さらに、マクロな視点で考えてみましょう。初枝は訪問に来た民生委員を追い払っていました。このように、治、信代、初枝は、こそこそと暮らし、孤立していました。そこには、行き詰まり感も描かれています。つながりの希薄さは、ちょうど非正規雇用、非婚、ひきこもりなどの昨今の社会問題にもつながります。

そうではなくて、役所をはじめ、周りに相談し、福祉サービスを受けることです。例えば、初枝は、治と信代と世帯分離をすれば、持ち家があっても生活保護の受給が可能になります。治は、就労支援や障害者枠雇用が可能になります。信代は、ハローワークを介して再就職が可能になります。このような社会とのつながりや援助によって格差が減ることで、彼らの社会への復讐心は減っていくでしょう。

行動遺伝学的に言えば、反社会性の「種」があっても、「芽」が出ていても、「花」が咲かないように、その「水やり」をしない取り組みを社会全体ですることが重要になります(全体的予防介入)。

そもそも、「万引き」(反社会性)に限らず、「種」から「芽」が出て、「花」が咲くかどうかは、それまでの「水やり」の加減次第です。そういう意味では、私たちたちの行動は、遺伝だけでなく、やはり環境によっても決まっていると言えます。ある行動に対しての「意思」は、私たちが思っている以上に、周りによって揺れているのかもしれないと思えてきます。つまり、「万引き」(反社会的行動)は、人ごとではないということです。

原始の時代は、その極限状況から、「万引き」をした人の排除という手段しか残されていなかったわけです。排除すれば、死んでしまう可能性が高いため、再犯リスクはほぼ0です。しかし、現代は違います。「万引き」をした人は生き続けてると同時に、彼らの教育や福祉にコストをかける社会の余裕があります。懲らしめることが全てではないです。そう考えると、犯罪と遺伝の関係を受け入れても、懲らしめられなくなるという単純な発想は出てこないでしょう。つまり、私たちの「意思」は、思っているよりも流されやすいと冷静に理解する必要があります。

★表1 犯罪心理

「本当の社会」とは?

刑事が祥太に「本当の家族だったらそういうことしないでしょ」と言うシーンがありました。祥太をはっとさせると同時に、私たちをもはっとさせるインパクトのあるセリフです。同じように考えれば、「本当の社会」だったら、どうでしょうか? その「不都合な真実」と向き合うでしょう。なぜなら、その社会は、本当に「万引き」(反社会的行動)が減ってほしいと願うからです。そして、より良い社会になってほしいと願うからです。

これは、すでに行われている犯罪加害者の教育政策や福祉政策を支持するものです。犯罪に対して厳しい目で見たり、排除したくなる気持ちは、私たちの心の中に、もちろんあります。ただし、同時に私たちが、その「不都合な真実」に向き合った時、そして、排除することが次の犯罪を誘発するという逆説に気付いた時、その逆説を踏まえた対策を理解することができるでしょう。その時、「不都合な真実」は「都合がつけられる事実」であったと納得できるのではないでしょうか?

参考記事

【差別の心理】2017年5月号 映画「ムーンライト」 マイノリティ差別の解消には?
【非行の心理】2015年4月号 ドラマ「積み木くずし真相」 なぜ反抗するのか?-素行障害
【知能】2013年8月号 映画「アイアムサム」 知的障害
【サイコパスの心理】2013年3月号 映画「告白」 ソーシャルサポート

参考スライド

【パーソナリティ障害】2019年

参考図書

1)万引き家族:是枝裕和、宝島社文庫、2019
2)犯罪心理学 犯罪の原因をどこに求めるのか:大淵憲一、培風館、2006
3)遺伝マインド:安藤寿康、有斐閣Insight、2011
4)言ってはいけない:橘玲、新潮新書、2016