連載コラムシネマセラピー

私たちの身近にある映画、ドラマ、CMなどの映像作品(シネマ)のご紹介を通して、コミュニケーションメンタルヘルスセクシャリティを見つめ直し、心の癒し(セラピー)をご提供します。

【2ページ目】2021年9月号 映画「キッズ・オールライト」【その3】じゃあどう法整備する?「精子ドナーファーザー」という生き方とは?【生殖補助医療法】

国はどうすればいいの?

「不都合な真実」を踏まえて、精子提供によって生まれた子どもの取り組みを考えました。それでは、国はどうすればいいのでしょうか?

ここから、出自を知る権利を保障するために、さらに必要な生殖補助医療法への具体的な法整備を大きく3つあげてみましょう。

①精子を提供される親に生殖カウンセリングを義務づける

1つ目の法整備は、精子を提供される親に生殖カウンセリングを義務づけることです。この目的は、真実告知についての親の理解を得ることです。

具体的には、生殖心理カウンセラーによる2段階のカウンセリングが望ましいです。1段階目は、精子提供を受ける前に、精子提供によって生まれた子どもの心理と精子を提供された親の心理をいっしょに説明します。そして、最終的な判断は親に委ねるものの、真実告知を推奨することです。

2段階目は、精子提供によって妊娠が判明した後に、真実告知のタイミングややり方の情報提供をすることです。例えば、そのタイミングは、親子の情(愛着)と理解力(知能)が育まれる最中の幼児期よりも後で、親への反抗が始まる思春期よりも前、つまり小学校低学年の学童期が望ましいでしょう。もちろん、もともと父親がいない場合は、幼児期で子どもから質問されるでしょう。その時は、子どもが理解できる言葉で安心感を優先して、ある程度伝える必要があります。

また、そのやり方は、最近ではテリングという、より軟らかいニュアンスで、本などで紹介されています。こうして、心の準備が促されます。オプションの3段階目として、実際にテリング(真実告知)をする前に、カウンセリングの中で指導を受けることもできます。

この取り組みは、生殖が多様化したことで求められる新たな倫理観を学ぶことであり、生殖への拡大した権利に伴う新たな義務とも言えます。大事なことは、分からなくて不安だから隠すのではなく、オープンにできるように情報提供や心理的サポートの体制をつくることです。積極的に真実を伝えてこそ、親子の本当の信頼関係が得られます。精子提供の事実を伝えたからと言って、信頼関係が揺らぐことはまずないです。実際に、精子提供によって生まれた子どもへのアンケート調査では、真実を教えてくれない方が良かったという子どもはほとんどいないことが分かっています。

なお、子どもにとっての親子の信頼関係の詳細については、以下の関連記事をご参照ください。


>>【子どもにとっての親子の信頼関係】

なお、この取り組みは、出生前診断における遺伝カウンセリングに似ています。

②精子提供の事実を戸籍に記載する

2つ目の法整備は、精子提供の事実を戸籍に記載することです。この目的は、出自を知る権利を確実に保障することです。いくら真実告知の必要性について親に心理教育をしたとしても、親が実行しない可能性もあります。しかし、戸籍に記載されていれば、いずればれることが明らかであるため、親による告知は必然的に促されるでしょう。

また、この法整備は、法的な親子関係を明確にして、精子ドナーが法的な親になれないよう規制することでもあります。この目的は、先ほど指摘しました認知請求のトラブルの懸念を払拭することで、精子提供の法的な安全性がより社会に認知され、より多くの精子ドナーを確保することです。実際に、この映画の舞台となっているアメリカでは、統一親子関係法によって、この規制がすでにあります。

なお、特別養子縁組では、これが成立した時点で、子どもと生みの父母との法的な親子関係は終了し、その審判が戸籍に記載されます。

③精子ドナーが生物学的な子どもを知る権利を認める

3つ目の法整備は、精子ドナーが生物学的な子どもを知る権利を認めることです。これは、子どもが成人したら、子どももドナーもお互いに知ることができるシステムです。この目的は、出自を知る権利をより確実に保障することです。親が真実告知をせずに、子どもがわざわざ戸籍を見ない可能性もあります。この規定があることで、子どもが成人した時点で、精子バンクを通して、精子ドナーから子どもに連絡が来る可能性があるため、親はその前に真実告知をすることが必然的に迫られます。告知を法的に強制しないとしたら、最後に親のウソがばれるというこのシステムは、とても理に適っていると言えるでしょう。もちろん、ドナーはこの権利を行使しない可能性もあります。それは、ドナーの自由です。ただ、やはり子どもの出自を知る権利を最優先に考えた場合、ドナーから連絡することも推奨されるべきでしょう。

実際に、オーストラリアのヴィクトリア州では、精子提供で生まれた子どもは、その事実が出生登録に記載される上に、ドナーも成人した子どもの同意のもと、子どもの個人情報を得ることができます。この取り組みは、出自を知る権利の保障において、最も先進的であると世界的に注目されています。

また、このもう1つの目的は、近親婚を防ぐことです。精子提供で生まれた子ども全員の精子ドナーが特定されていれば、ドナー兄弟が確実に判明します。それは、裏を返せば、近親婚を防ぐことになります。

さらに、他の目的として、新たなドナー確保につながる可能性があります。匿名希望のドナーは、多くが若い学生でした。やはり「楽して儲かる」という金銭目的や献血レベルの気軽さが見透かされます。一方、非匿名のドナー(オープンドナー)は、ある程度の年齢を経た社会人であることが分かっています。もちろん相応の報酬は必要ですが、その後に生物学的な子どもへのフォローの意識が高いでしょう。

ドナーの知る権利として、自分の精子がどう使われ、実際に生物学的な子どもが生まれたかどうか、何人生まれたかを知ることができるシステムにしたら、心の準備ができるため、新たな自覚や目的意識を持ったドナーが集まっていく可能性があります。