連載コラムシネマセラピー
私たちの身近にある映画、ドラマ、CMなどの映像作品(シネマ)のご紹介を通して、コミュニケーション、メンタルヘルス、セクシャリティを見つめ直し、心の癒し(セラピー)をご提供します。
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③夢を語り合う―自我
こころの両親は、二人とも仕事をしていました。しかし、夕食などで、特に仕事については話題にしていませんでした。実は、話してほしい話題があります。
3つ目は、夢を語り合うことです。ここで、その方法を具体的に3つあげてみましょう。
a.背中語り
1つ目は、背中を見せる、つまり背中で語ることです。まず、親が、仕事をはじめボランティアなども含めた社会参加をどうしていて、どうなりたいのかという「夢」(ビジョン)をさりげなく語っていることです。これは「味方になる」の方法の1つである雑談の延長です。たまに愚痴は言いつつも、やはりがんばっていることを夫婦で語り合っていることです。いつか行ってみたい場所、いつか会ってみたい人たちなども語るのも良いでしょう。
逆に言えば、親が仕事の愚痴を吐いてばっかりでつまらなさそうにしているだけでは、子どもは大人になって仕事をがんばりたいとは思わなくなるでしょう。これは、心理学的にはモデリングと呼ばれています。思春期の子どもは親の言うことは聞かなくなりますが、親のまねは知らず知らずにしてしまうということです。
b.タイムマシン
2つ目は、タイムマシンに乗せるです。これは、タイムマシンに乗って未来の自分を見にいったら、どんな自分が見れるか想像しもらうことです。何歳でどんな場所にいて、どんな格好や表情をしているか、誰とどんな話をしているか、細かく聞き出すことです。さらに、それを子どもに書き出してもらって、その紙を張り出すことを提案します。絵が得意なら、絵にして飾るのも良いでしょう。
夢(未来)を語るとは、自分の人生に責任を感じていくプロセスでもあります。すると、じゃあ今どうすればいいのかがおのずと沸き起こってきます。それは、夢(目的)を叶えるために少なくとも学校に行くことは必要だと気づくことです。こうして、自分で決めて行動することで、自分の行動に責任を持つようになります。それが自分の生き方に納得するという自我同一性(アイデンティティ)につながっていきます。
この働きかけは、心理学的にはタイムマシンクエスチョン(ブリーフセラピー)と呼ばれています。ポイントは、未来の自分の視点に立たせ、考えさせることです。ちなみに、視点は、未来の自分だけでなく、理想の自分、尊敬する人(ロールモデル)に置き換えることもできます。具体例は、表4をご覧ください。
この考えさせるかかわりの詳細については、以下の記事をご覧ください。
c.意味づけ
3つ目は、意味づけることです。これは、うまく行かないことや嫌なことがあっても、それを「これは夢(目的)を叶えるために必要なんだ」と意味づけることです。 夢を具体的に描けていれば、これが可能になります。「試練」「次にうまくやるためのリハーサル」などと伝えることもできます。これは、「味方になる」でご紹介したポジティブ返しでもあります。
実際の研究では、人はストレスがあることによって、自ら成長していくことも分かっています。心理学的には、ストレス関連成長(SRG)と呼ばれています。つまり、うまく行かないことや嫌なことは、成長するためにはむしろある程度必要であるという考え方です。これは、悔しさという心理の機能です。この点で、親が失敗させないように先回りして指示したり、嫌な思いをさせないように人間関係を制限するのは、逆効果であるということです。この詳細については、学校環境の影響度として、以下の記事をご覧ください。
なお、夢を語ったり意味づけしてもらうためには、「味方になる」の方法の1つである良いところ探しから、本人が自分の強み(リソース)を自覚していることが大前提です。そして、「大人扱いする」の方法の1つである家庭のルールづくりから、本人が自分の人生を自分で生きる責任を自覚していることも大前提です。この強みや責任の自覚がなければ、いくら夢を聞いても、「分からない」「思いつかない」としか答えなかったり、「つまんない大人になってる」としか言わないでしょう。
このように、先ほどの有能感を中核として、夢を語り合うことで、「やりたい」(want)、「なりたい」(want to be)という自分の人生への責任感を育み、個人的そして社会的な自我(アイデンティティ)を確立することができます。これが、仕上げとして必要になります。