連載コラムシネマセラピー

私たちの身近にある映画、ドラマ、CMなどの映像作品(シネマ)のご紹介を通して、コミュニケーションメンタルヘルスセクシャリティを見つめ直し、心の癒し(セラピー)をご提供します。

【3ページ目】2024年2月号 映画「かがみの孤城」【その2】実は好きなことをさせるだけじゃだめだったの!?-不登校へのペアレントトレーニング

②大人扱いする―自信

こころの母親は、こころが城に通っている間に家にいないことに気づき心配して指摘します。しかし、こころから「監視されるの好きじゃない」と言い返されると、その後は、それ以上言わず、本人に任せるようになります。

2つ目は、大人扱いすることです。ここで、その方法を具体的に4つあげてみましょう。

a.プライバシー尊重

1つ目は、プライバシーの尊重です。例えば、部屋の掃除という口実で、勝手に持ち物を確認したり、日記を見たりしないことです。携帯電話を持たせている場合、勝手に見ないことです。

ここで、「心配だから確認したい」と思う人はいますでしょうか?これは、子ども扱いです。本人が「大人になりたい」という自我を削ぐことになります。そして、信頼関係も損ねてしまいます。

もしも、みなさんが大人扱いする感覚がよく分からない場合は、ホームステイ中の外国人の若者だったらどう接するかと想像したらいいでしょう。もはや文化が違うわけです。相手の文化を尊重して、こっちの文化を押し付けることはできないです。親切に接して、決して勝手に携帯電話をのぞき見しないでしょう。それくらいの距離感が必要であるということです。

b.大人トーク

2つ目は、大人のトークです。例えば、親が話しかけても子どもが無愛想な時、「その態度は何なの?」と叱る(攻撃)のではなく、それ以上何も言わないという黙認(非主張)でもなく、フラットな大人の関係を意識して、ほどほどに伝えることです。具体例は表3をご覧ください。

★表3 大人トークの例

なお、これは、心理学ではアサーションと呼ばれています。この詳細については、以下の記事をご覧ください。


>>【アサーション】

c.お小遣い歩合制

こころは、他のメンバーへのお誕生日プレゼントを自分の財布から支払っていました。こころはお小遣いをもらっているようです。実は、お小遣いは、子どもを心理的に自立させるためにも効果的なツールであると言われています(*2)。一方で、不登校の相談を受ける時、お小遣いについて確認すると、多くの親がお小遣いをあげていない、つまり必要に応じて親の判断でお金を渡していることが判明しています。そうではなくて、このお小遣いに仕組みをつくる必要があります。

3つ目は、お小遣い歩合制です。具体例は図1をご覧ください。

★図1 お小遣い歩合制の例

ポイントは、親の判断や気分でお小遣いをあげないこと、つまりお小遣いのルール化です。まず、あらかじめベースのお小遣いを設定します。そして、例えばフリースクールに行けたら1日プラス〇円と設定するのです。これは、大人の給料(報酬制)と同じです。心理学的には、トークンエコノミー(行動療法)と呼ばれています。これを本人がある程度納得する形で提案し、いっしょに署名します(契約制)。定期的に見直して、項目や金額設定を変更する話し合いも行います(交渉制)。

こうすることで、「何もしなくてもお金がもらえる」「なくなったらねだればいいや」という子どもっぽい発想がなくなります。そして、「がんばったら自由に使えるお金が増える」「計画的にお金を使おう」という発想が生まれます。そうなるためにも、安易にお金を渡さないことも必要です。

なお、この取り組みは「お金で釣ってる」と思っている人はいますでしょうか? 確かに、小学校までは学校に行く楽しさがお金に釣られて削がれること(アンダーマイニング現象)がないようにするため、なるべくやらない方が望ましいです。しかし、中学校からはもはや楽しさではなく必要性の自覚です。よって、その義務(労力)に対してのインセンティブや見返り(報酬)を分かりやすく提示する必要があります。これが大人扱いです。

もちろん、ストレートな金勘定に抵抗を感じるという人は「1円=1ポイント」として、「ポイント制」に置き換えることができます。また、子どもがお小遣いを増やすことに乗ってこない場合は、ゲームの時間制限(後述)をしたうえで「1ポイント=ゲーム〇分」と置き換えることもできます。

d.家庭のルールづくり

こころの家には、ゲーム機がありませんでした。原作では、こころが不登校になってから父親が一方的にゲーム機を取り上げてしまったと説明されていました。確かに、ゲーム機やスマホを最初から家に置かないようにするのも1つのやり方です。ただし、ただ一方的に取り上げるだけでは子ども扱いです。

それでは、ゲームやスマホの時間制限をお小遣い歩合制の項目に入れるのはどうでしょうか? 残念ながら、機能しないでしょう。なぜなら、子どもはその分を損してもやり続けるからです。それくらい、ゲームやスマホは依存性が強いのです。

夜遅くまでゲームに熱中していれば、朝起きられないのは当たり前です。こんな時、親が本人を無理やり叩き起こして学校まで送迎するのはどうでしょうか? これも明らかに子ども扱いです。「親が起こして連れてってくれるからいいや」とますます子どもっぽい発想になります。

そこで、最後にして最重要なのが、家庭のルールづくりです。具体例は図2をご覧ください。

★図2 家庭のルールの具体例

このポイントは、 まずペナルティの設定です。そして、ある程度納得してもらうために、ゲーム依存症のリスクがどれほどのものか根拠(データ)を示すとともに、家族の目標、つまりビジョンを示すことです。また、「家族で助け合う」というビジョンを入れておくと、先ほどのお小遣い歩合制によって「お金がもらえないなら家事は手伝わない」という発想を予防することもできます。さらに、なるべく家族全員に署名してもらいます。つまり、立会人の存在です。ルールが機能するためには、ペナルティの設定と同時に、それをチェックする周りの目が必要になります。これは、ルールを課される子どもだけでなく、ルールを課す親にも向けられているという点で、とてもフェアで妥当なものになるでしょう。

家庭のルールづくりの一番の目的は、ゲームやスマホなどの家庭内の娯楽の制限です。娯楽という点では、テレビも含まれます。こころは、城に招かれる前、1日中テレビを見ていました。家庭は、確かに安心できる場所であることが必要ですが、楽しい場所である必要はありません。むしろ、「家にいてとても楽しい」と思っている子どもがそれよりも娯楽が少ない学校やフリースクールに行くわけがないことは容易に想像できます。「家にいると退屈だ」と子どもに思わせることが必要になります。その方が、そんな家を早く出て自立したいと思うでしょう。

「それじゃかわいそうだ」と思う人はいますでしょうか? この発想も子ども扱いです。私たち親は、自立できる人を育てる責任があります。それが最優先されます。その責任がある以上、不登校の子どもに家庭内の娯楽の制限をすることはやはり必須になります。ちょうど、糖尿病の子どもにお菓子やジュースなどの嗜好品を制限するのとまったく同じです。そうしないのは、やはり「教育ネグレクト」と言わざるをえません。

つまり、大人扱いをするとは、本人がどんな行動を選択するかの自由を与えると同時に、その行動への責任を教え、責任を取る練習をさせることであることが分かります。逆に言えば、自由を与えないと責任を取る練習ができないです。よく言われるように、自由と責任はセットです。

この責任とは、最終的には自分の人生を自分で生きる責任です。そのため、成人したら、経済的な援助は基本的にできない、病気になるなど困ったときに一時的に限ることをあらかじめ伝える必要があります。また、「ゲームをやらせろ」と暴れる場合は、もはや対応の限界です。暴行や器物破損として警察に通報を必要があることを本人に冷静に伝える必要もあります。つまり、家庭のルールは社会のルールにつながっていきます。

なお、このような限界設定は、やはりその前に味方になるという信頼関係を十分に築いていることが大前提です。この信頼関係がなければ、そもそも家庭のルールを守ろうとする気が子どもに起こらないでしょう。

このようにして、もともとの自尊心を土台として、さらに大人扱いすることで、「自分はできる」(can)という有能感を育み、自信(自己効力感)を高めることができます。これが、中核として必要になります。