連載コラムシネマセラピー
私たちの身近にある映画、ドラマ、CMなどの映像作品(シネマ)のご紹介を通して、コミュニケーション、メンタルヘルス、セクシャリティを見つめ直し、心の癒し(セラピー)をご提供します。
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ジョーンズは、これまで入退院を20回以上繰り返してきたことが判明します。ボーエン先生は、ジョーンズが躁うつ病になった原因を、彼のかつての恋人エレンとの失恋ではないかと考えました。しかし、さすがにこれでは、入退院を繰り返すわけを説明できません。
また、ジョーンズは、躁うつ病によって、仕事やお金の管理ができなくなり、社会的なトラブルを繰り返してしまいました。それでも、公聴会では「生まれつきなんです」「これがおれなんだ」と言うのです。躁状態は気分が良いので、このままがいいと思う気持ちは理解できるのですが、それにしても、もはや躁うつ病が彼らしさ(アイデンティティ)になっています。
実際には、躁うつ病の遺伝率は、約80%です(*1)。つまり、原因はストレス(環境)よりも遺伝が大きいことになります。ただし、その発症メカニズムについては、現時点で詳しく分かっていません。
なお、ジョーンズが一時持ち歩いていたリチウム(気分安定薬)は、薬理メカニズムは不明なのですが、予防効果が確かにあり、治療薬として使われています。このリチウムはアルカリ金属の1つであり、地中に広く微量に存在します。
実際の疫学研究において、水道水に含まれる微量のリチウムの濃度が相対的に低い地域ほど自殺率が高くなるという結果が出ています(*2)。これを応用して、自殺予防の医療政策として、水道水に微量のリチウムを人為的に添加するというアイデアがあります(*3)。虫歯予防にキシリトールを水道水に添加する医療政策をすでにしている国もあるくらいなので、一見合理的に思われます。しかし、キシリトールとは違い、リチウムは高濃度で胎児奇形性などのリスクがあります。この点も踏まえて、やはり倫理的な議論を呼ぶでしょう。
>>【その2】だからハイテンションになってたの?―躁うつ病の起源
*1 「標準精神医学 第8版」p.306、p.337:医学書院、2021
*2 「飲料水中の天然リチウムと自殺率との関連 生態学的研究の系統的レビューとメタアナリシス」:the British Journal of Psychiatry、2020
*3 「水道水に含まれるリチウムが自殺防止に?」:松丸さとみ、ニューズウィーク日本版、2020