連載コラムシネマセラピー
私たちの身近にある映画、ドラマ、CMなどの映像作品(シネマ)のご紹介を通して、コミュニケーション、メンタルヘルス、セクシャリティを見つめ直し、心の癒し(セラピー)をご提供します。
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④子育てに多くのコストをかけるから-格差
約1万数千年前に現生人類は、農耕牧畜によって食料を貯蔵することができるようになり、富の蓄積が可能になりました。人口増加とあいまって、貧富の差ができて、社会が階層化されていきました。これが、封建社会(権威主義的パーソナリティ)の起源です。なお、この心理の詳細については、以下の関連記事をご覧ください。
この上下関係に重きを置く大きな封建社会が広がっていく一方、それまでの信頼関係に重きを置く小さな部族社会は減っていきました。すると、1人でいる母親は、レイプや子殺しに遭うリスクが高まります。身分の高い、つまり経済力のある男性(父親)ほど、それだけ子育てにコストをかけることができるようになります。そんな男性ほど、他の男性が妻に子どもを生ませるの避けたい、つまり血のつながりにこだわるでしょう。
血のつながりにこだわる原因として、4つ目は、子育てに多くのコストをかけるからです(格差)。こうして、経済力のある男性ほど、妻と他の男性が近付かないようにさせて、妻を守りたいと思うようになりました(配偶者防衛)。やがて、この女性を守る心理は、女性の性行動を支配する心理(文化)に拡大していきました。これは、他の男性が外から入って来られなくするだけでなく、妻が中から出て行けないようにもするものです。
例えば、北アフリカでいまだに行われている女子割礼という悪しき風習です。また、イスラム社会では、女性が全身をベールで覆い、姿を見せない風習があります。インドのカースト社会では、上位カーストになるほど、女性の部屋の窓は小さくなり、壁の高い位置にあります。中国の纏足(てんそく)は、もともと足先を成長させないように変形させることで、貴族階級の女性が外に出られない状況をつくるための風習でした。そして、日本におけるかつての家父長制では、夫が家計を握り、妻を家に従属させていました。これらの文化によって、経済力のある男性は、父性の確証を得ていたのです。もちろん、現代の価値観では、どれも恐ろしい女性差別です。
ちなみに、現在の日本で、戸籍や確定申告などにおける世帯主の記載、夫婦同姓などは、この配偶者防衛の名残とも言えるでしょう。また、専業主婦という立場は、良妻賢母の名の下に女性が経済的に自立しないように家の中に押し込められている点で、やはり配偶者防衛の名残であり、実は男性による女性のコントロールの1つの形であるという見方もできるでしょう。
実際に、みどりは、専業主婦で、良多から家事や育児のダメ出しをこまごまと言われています。良多は経済力がかなりあり、小学校受験をさせるくらい子育てにコストをかけています。逆に、ゆかりは、お弁当屋のパートをして何とか家計を支えています。その一方で、雄大は、古びた電気屋を営み、子どもといっしょにいる時間が長くはあります。しかし、経済力はほとんどなく、実は子育てにあまりコストをかけていません。つまり、血のつながりへのこだわり度は、子育てに多くのコストをかける人>子育てにコストをあまりかけない人と言えます。これは、「良多>雄大」の順番を支持します。
なお、配偶者防衛が危うくなった時に引き起こされる心理が、嫉妬です。その働き方は、嫉妬の研究調査によって、男女差があることが分かっています。それは、夫は妻の身体的な浮気に嫉妬するのに対して、妻は夫の精神的な浮気に嫉妬することです。そのわけは、夫は父性の不確実性がある一方、妻には「経済力の不確実性」があるからと言えます。「経済力の不確実性」とは、夫が浮気相手と再婚した場合、夫の経済力(稼ぎ)が浮気相手に流れてしまい、妻の経済が不安定になるからです。
逆に言えば、例えば、夫は妻が男性アイドルのファンになることには比較的に寛容です。なぜなら、「浮気相手」が手の届かないアイドルなので、父性の不確実性は揺るがないからです。一方、妻は夫が風俗関係のお店に行くことは比較的に寛容です。なぜなら、「浮気相手」が一定の料金を求めるだけのプロなので、「経済の不確実性」は揺るがないからです。しかし、その逆パターンは、ご想像の通り、寛容であることはできないでしょう。
このような嫉妬の男女差から、夫がやたらと妻の居場所を確認するのも納得が行くでしょう。一方で、妻が「私のこと好き?」「私のこと嫌いになった?」という定番の質問を繰り返すことも納得が行くでしょう。ただし、両者ともやりすぎると、モラルハラスメントのリスクがあるので、注意が必要です。なお、嫉妬の心理の詳細については、以下の関連記事をご覧ください。