連載コラムシネマセラピー

私たちの身近にある映画、ドラマ、CMなどの映像作品(シネマ)のご紹介を通して、コミュニケーションメンタルヘルスセクシャリティを見つめ直し、心の癒し(セラピー)をご提供します。

【1ページ目】2021年11月号 映画「そして父になる」【続編・その2】子育ては厳しく? それとも自由に? その正解は?【科学的根拠に基づく教育(EBE)】

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・行動遺伝学
・厳格な子育て
・放任的な子育て
・自律的な子育て
・グッド・イナッフ・マザー
・能力(心理的・行動的形質)
・癖になりやすさ(嗜癖性)
・高い感情表出
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前回(続編・その1)では、映画「そして父になる」を通して、英才教育によって特に高まるとされる認知能力とそれ以外の非認知能力の違いを考えました。そして、その違いから、英才教育で親がハマる「罠」を明らかにしました。それでは、逆に、厳しい英才教育などをせず、自由にさせて温かく見守るだけ放任的な子育てが良いのでしょうか? そのリスクはないでしょうか?

これらの答えを探るために、今回(続編・その2)は、引き続きこの映画を通して、伝統や経験則ではない科学的根拠に基づく教育(EBE)を行動遺伝学からご紹介します。そして、子育ての正解、そしてその根拠をいっしょに探っていきましょう。

なお、科学的根拠に基づく教育(EBE)とは、科学的根拠に基づく医療(EBM)と同じように科学的な根拠に重きを置いており、昨今の学校教育や子育ての分野で注目されつつあります。

放任的な家庭環境のリスクは?

野々宮家は厳格な家庭環境。そこで育った慶多は、非認知能力が育まれないリスクを前回ご説明しました。対照的に、斉木家は放任的な家庭環境。非認知能力が育まれるベネフィットをご説明しました。

それでは、みなさんだったら、野々宮家よりも斎木家に生まれたいと思いますか? 野々宮家よりも斎木家のような子育てをしたいと思いますか? 

ここから、斎木家を通して、逆に放任的な家庭環境のリスクを、行動遺伝学的に3つあげてみましょう。

なお、行動遺伝学とは、一卵性双生児(遺伝子一致率100%)と二卵性双生児(遺伝子一致率50%)の行動(心理的・行動的形質)の一致率(相関係数)を比較する双生児法を主に用います。簡単に言うと、一卵性双生児の行動の一致率が100%にならない場合、その差し引かれた分(それだけ似させまいとする要素)が家庭外環境(非共有環境)の影響と言えます。また、一卵性双生児の行動の一致率に二卵性双生児の一致率が50%を超えて迫ってきている場合、その迫ってきている分(それだけ似させようとする要素)が家庭環境(共有環境)の影響と言えます。ここから、ある行動における遺伝、家庭環境、家庭外環境のそれぞれの影響度(寄与率)を算出することができます。

①認知能力が高まらない

斎木家には、子どもの古い本が何冊かあるだけで、庭には古い犬小屋が放置されており、家の中は散らかって雑然としています。子育ての文化資本としては、必要最低限で、少なすぎる印象があります。対照的に、野々宮家では、ピアノ・ギターなどの楽器や最新の英語の音声教材が置かれ、壁に地図が貼られており、家の中はきれいに片付けられ整然としています。

斎木家の父親(雄大)は、汗だくになるまで子どもたちといっしょに遊んでいるだけです。母親(ゆかり)は、普段は温かく見守り、兄弟げんかやいたずらが過ぎた時だけ感情に任せて怒鳴ります。2人とも子どもたちに世の中の仕組みやルールの説明をしていません。そもそも親自身が世の中の常識に無頓着な様子です。もちろん、習い事をさせていません。

1つ目のリスクは、認知能力が高まらないことです。行動遺伝学の研究において、認知能力を代表する知能指数(IQ)は、家庭環境の影響が約30%あることが分かっています。その家庭環境の1つとして、家の中の片付けの程度があげられます。実際に、家の中が片付いていない家庭ほど、その子どもの認知能力が低いことが分かっています。このわけは、家庭内が混沌としている状況(無法地帯)では、ルールを教えられても、頭の中も混沌としてしまい、集中できずに頭に入って行かないからと考えられています。逆に言えば、定位置などの一定のルールがある環境で、認知能力は高まっていくと言えます。また、家の中の本の多さもあげられます。実際に、家の中の本の数が多い家庭環境ほど、その子どもの読書行動が高まることが分かっています。

②嗜好品にハマりやすい

斎木家では、幼児の子どもたち全員が、コーラ(カフェイン)を飲んでいます。琉晴は、携帯式のゲームを制限なくやっています。母親は、みんなの目の前でタバコを吸っており、受動喫煙のリスクもあります。夕食では、両親の目の前のテーブルにビールジョッキが置かれています。対照的に、野々宮家では、コーラ禁止、ゲームは1日30分までの制限があります。母親(みどり)は、父親(良多)のコレステロール値を気にして、玉子などの食事を制限する声かけをしょっちゅうしています。そして、父親はあまり酒を飲みません。

2つ目のリスクは、嗜好品にハマりやすいことです。行動遺伝学の研究において、アルコール、タバコ、ドラッグなどの物質依存は、家庭環境の影響が約15%~30%あることが分かっています。これは、その依存物質が幼少期から目に入り、慣れ親しんでしまうからと考えられています。これは、非認知能力と同じように癖になりやすさ(嗜癖)があるとも言えます。だからこそ、現在の社会では、特にタバコのCMやメディアの喫煙シーンは厳しく規制されています。

なお、物質依存(嗜癖)のメカニズムの詳細については、以下の関連記事をご覧ください。


>>【物質依存(嗜癖)のメカニズム】

③素行が悪くなる

斎木家では、夕食の食事がテーブルに運ばれる直前に、父親とおじいちゃんが手拍子をしてはしゃぎ、それを子どもたちが真似します。父親は、ストローの先をかみ潰す癖があり、琉晴は父親を真似ていたことが分かります。野々宮家ではありえない食事風景であり、テーブルマナーです。

また、父親は、自営業であることもあり、普段から家でごろごろしており、子どもたちとは全力で遊ぶことはあっても、あまり仕事を熱心にしていません。左肩に入れ墨があり、もともと勤め人をしていたとも考えにくいです。対照的に、野々宮家の父親(良多)は、仕事人間でほとんど家を空けています。

斎木家の母親は、「早くって言ってるのに!」と怒鳴り、下の子の頭を平手打ちしたり、琉晴が慶多の飲み残したジュースを勝手に飲むと「なんで慶多くんの取るの!ブツからね!」と手を上げておどかす様子が映画のノベライズ版で描かれています。取り違えが発覚した時、病院関係者との面会で、夫婦揃って、すぐに賠償金の話を持ち出します。良く言えばずる賢い、悪く言えばがめついです。このがめつさは、先ほどの琉晴がジュースを横取りする行動に重なります。対照的に野々宮家の父親は「大事なのはお金より、どうしてそうなったのかという真相をですね」と真面目に指摘しています。

3つ目のリスクは、素行が悪くなることです。素行の悪さとは、規範意識の低さであり、好き勝手な言動をしてしまうことです。これは、この先を含む社会よりも今この瞬間の個人(家族も含む)に重きを置いています。自分ではない誰かや、今ではないこの先に思いを馳せて客観視する認知能力は低いとも言えます。

行動遺伝学の研究においても、非行などの問題行動(反社会的行動)は、家庭環境の影響が約20%あることが分かっています。これも、その行動パターン(認知パターン)が幼少期から目に入り、すり込まれてしまうからでしょう(内在化)。これは、非認知能力と同じように癖になりやすさ(嗜癖)がある、つまり行動の依存とも言えます。だからこそ、現在は、学校だけでなく、家庭での体罰も法的に禁止されるようになりました。また、メディアの性的なシーンは言うまでもなく、暴力シーンも厳しく規制されています。最近では、お笑いにおける暴力的なツッコミも自粛が進んでいます。

なお、反社会的行動のメカニズムの詳細については、以下の関連記事をご覧ください。


>>【反社会的行動のメカニズム】