連載コラムシネマセラピー
私たちの身近にある映画、ドラマ、CMなどの映像作品(シネマ)のご紹介を通して、コミュニケーション、メンタルヘルス、セクシャリティを見つめ直し、心の癒し(セラピー)をご提供します。
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能力(心理的・行動的形質)は古ければ古いほど癖になりやすい(嗜癖性が強い)という仮説は、非認知能力(正確には性格と自尊心)、言語的コミュニケーション能力(正確には語学力)、言語理解能力の順番に、家庭環境の影響度が出てきて増えている点が傍証になりそうです。今後に厳密な意味での非認知能力や言語的コミュニケーション能力についての家庭環境の影響度の研究が望まれます。
この仮説のもと、嗜癖性が弱い能力は、それだけ新しく出てきたものであり、家庭環境の影響が出てくることが分かりました。しかし、嗜癖性が強いのに家庭環境の影響が出ている心理的・行動的形質が、実は2つあります。それが、先ほど放任的な家庭環境のリスクでご説明した、素行の悪さ(反社会的行動)と嗜好品へのハマりやすさ(物質依存)です。
ここから、この2つの形質に家庭環境の影響がある原因を、「能力」という視点で、再び進化心理学的に掘り下げてみましょう。
①素行の悪さという「能力」を文化的に発現させないようになったから
約300万年前に人類は部族社会をつくり、助け合うようになりましたが、やはり飢餓の時は生き残るために奪い合いになります。そう切り替えられる種が、生存の適応度を上げるでしょう。つまり、助け合う能力と同時に出し抜く「能力」が進化したのでした。これが、反社会的行動の起源です。これは、同じ時期に出現した非認知能力と同じくらい嗜癖性が強いと言えるでしょう。
数万年前に、部族同士の交流が盛んになり、反社会的行動が増えていきました。その抑止のために、獲物を仕留める飛び道具を武器として人に向けて威嚇する治安隊が生まれました。これが、警察の起源です。こうして、反社会的行動が、文化的に禁じられ、罰せられるようになりました。
素行の悪さ(反社会的行動)が癖になりやすい(嗜癖性がある)のに家庭環境の影響がある原因は、もともとあったその「能力」を文化的に発現させないようになったからです。言語的コミュニケーション能力や言語理解能力のようにその能力を家庭環境によって促進するのではなく、逆に、反社会的行動という「能力」を家庭環境によって抑制するようになったのです。
例えば、それが、野々宮家のようなしつけ(禁止行為の学習)です。逆に、そうしない斎木家のような家庭環境が、結果的に素行の悪さという「能力」を発現させてしまい、家庭環境の影響度が20%程度出てしまうのです。
なお、反社会的行動の起源の詳細については、以下の関連記事をご覧ください。
②嗜好品へのハマりやすさという「能力」を文化的に発現させないようになったから
アルコールの製造は約1万年前、大麻は約5千年前、タバコは7世紀頃であると考えられており、比較的に最近です。当たり前の話ですが、これらの嗜好品は、ハマるように人工的に造られたため、ハマる(嗜癖性が強い)のです。
嗜好品へのハマりやすさ(物質依存)が癖になりやすい(嗜癖性がある)のに家庭環境の影響がある原因は、そのハマる「能力」を文化的に発現させないようになったからです。反社会的行動と同じように、嗜好品にハマる「能力」を家庭環境によって抑制するようになったのです。例えば、それが、野々宮家のようにコーラ(カフェイン)禁止、ゲームの時間制限などの家庭のルールです。逆に、そうしない斎木家のような家庭環境が、結果的に嗜好品へのハマりやすさという「能力」を発現させてしまい、家庭環境の影響度が15%~30%程度出てしまうのです。
たくさん本が目の前にある家庭環境が言語理解能力を促進するのと同じように、たくさんの嗜好品が目の前にある家庭環境はそれらにハマる「能力」を促進してしまうというわけです。なお、アルコール依存症の起源の詳細については、以下の関連記事をご覧ください。
ちなみに、嗜好品ではないですが、嗜癖行動として、ギャンブルがあげられます。この家庭環境の影響度は、嗜好品と同じように考えれば、ある程度の%があっても良さそうですが、0%であることが分かっています。このわけは、確かに、ギャンブルは、狩りをする能力(ギャンブル脳)として、太古の昔から全ての動物がやってきたことであり、嗜癖性が強いです。しかし、アルコールやタバコと違って家庭内に入り込むことが難しいため、結果的に家庭環境の影響が出なくなっています。もちろん、成人してから実際にパチンコ店に行くという家庭外環境によって刺激が繰り返されると、ハマる「能力」が発現するでしょう。なお、ギャンブルの起源の詳細については、以下の関連記事をご覧ください。
ただし、昨今広がっているギャンブル性の高いゲームは別です。現時点で、これについての行動遺伝学的な研究は見当たりません。家庭内に入り込むことができるギャンブルとして、ゲームは家庭環境の影響が出ることが推測できます。なお、ゲーム依存症の詳細については、以下の関連記事をご覧ください。