連載コラムシネマセラピー

私たちの身近にある映画、ドラマ、CMなどの映像作品(シネマ)のご紹介を通して、コミュニケーションメンタルヘルスセクシャリティを見つめ直し、心の癒し(セラピー)をご提供します。

【2ページ目】2023年4月号 映画ドラえもん「のび太と空の理想郷」それでもパーフェクトな子どもにさせたい?【自己肯定感】

パラダピアの正体とは?

パラダピアとは、争いがなく、みんなパーフェクトになれて、偉い人がすべて決めてくれる、まさにユートピアのようです。しかし、実はパラダピアにはある大きな秘密が隠されていました。これは、パーフェクトであることの危うさにつながります。ここから、その危うさを3つあげてみましょう。

なお、ここからがネタバレになりますので、ご注意ください。

①「パーフェクト」な人の言いなりになる

ドラえもんとのび太の前に、マリンバが現れます。彼女は、未来の世界でパラダピアに無理やり連れてこられ閉じ込められている住人たちを助け出す任務を負っていたのです。彼女は、2人に「三賢人が研究しているのは人を操る光よ」と明かします。その光とは、実はパラダピアンライト(パラダピアの人工太陽)だったのです。

1つ目は、「パーフェクト」な人の言いなりになることです。受け身になり、自分の頭で考えなくなることです。「パーフェクト」とは、実は三賢人にとって都合の良い人間になることだったのです。よって、ここではパーフェクトをカギかっこにしています。そして実は、この「パーフェクト」は私たちの世の中で多数派が望ましいと思う価値観とも言い換えられます。心理学では、これを主流秩序と呼んでいます。そして、それに従わせる力を同調圧力と呼んでいます。パラダピアンライトは、まさにこの象徴と言えるでしょう。

なお、主流秩序の詳細については、以下の記事をご覧ください。


>>主流秩序

②「パーフェクト」であることにとらわれる

パラダピアンライトによって、ジャイアン、スネ夫、しずかちゃんが一様に同じ笑顔で大人しくなり、パラダビアの住人になっていくなか、のび太だけがなぜか変わりません。そんなのび太は「みんな、怒ることも大笑いすることも泣くこともない。ただ毎日、三賢人の決めた通りに生活してるだけ。そんなのパーフェクトなんかじゃない」と言うのです。

2つ目は、「パーフェクト」であることにとらわれることです。そのために取りつくろい、やがて染まってしまうことです。これは、パーフェクトであることに無理をしてしまったり、パーフェクトでなければ生きている価値がないと自分を追い詰めてしまうことにもなってしまいます。これは、エリートの自殺が少なからずいることを説明できるでしょう。心理学では、これを過剰適応と呼んでいます。この詳細は、以下の記事をご覧ください。


>>過剰適応

③「パーフェクト」でなければ懲らしめられる

のび太は夜中にジャイアンたちを起こして逃げだそうと試みます。ところが、ジャイアンから「勝手に外に出るのは規則違反ですよ」と言われ、スネ夫からは「すみませーん、規則を破ろうとする人がいまーす」と誰かを呼ばれそうになります。また、ソーニャは、ドラえもんと仲良くなったことで、三賢人の言うことをすぐに従わなくなります。すると、三賢人から「また、ガラクタに戻すぞ!」と脅されます。パラダピアは、争いのない国なのではなく、自己主張したら罰せられる国だったのです。

3つ目は、「パーフェクト」でなければ懲らしめられることです。それ以外は認められず、それ以外の生き方の自由や多様性がないことです。心理学では、これを排他性と呼んでいます。この詳細については、以下の記事をご覧ください。


>>排他性