【5ページ目】2025年4月号 海外番組「セサミストリート」【続編・その3】だから男性はこだわり女性は共感するんだ!だから人差し指の長さが違うんだ!―自閉症と情緒不安定性パーソナリティ障害の起源

なんで自閉症はかんしゃくをよく起こすの?

女の子は、共感性の高さから「良い子」になりがちであることが分かりました。逆に、男の子は、共感性の低さから「やんちゃ」になりがちです。そして、自閉症の場合は、さらにかんしゃくがよく見られます。それでは、そもそもなぜ自閉症はかんしゃくをよく起こすのでしょうか?

その答えは、先ほどの「良い子」や定型発達の子どものようなポジティブなコミュニケーションが難しいため、代わりに極度に騒ぐというネガティブな「コミュニケーション」によって親の養育行動を引き出すように進化したからと考えられています(*5)。つまり、ポジティブであってもネガティブであっても、アピール行動としては適応的です。

そもそも、人類が言葉を話すようになったのは進化の歴史ではごく最近の約20万年前です。自閉症(システム化)が生まれたのが人類初期の約700万年前と考えると、原始の時代、子どもも大人も「騒いだもん勝ち」だったでしょう。

育てやすい「良い子」や穏やかな人であることに価値が置かれるようになったのは、合理主義が広がった約200年前の産業革命以降の現代の価値観です。つまり、幼児期のかんしゃくは自閉症をはじめとする発達障害ならではの生存戦略であったことが分かります。ついでに言えば、情緒不安定性パーソナリティ障害の自傷(行動化)も「騒いだもん勝ち」の生殖戦略であったと言えます。

人類進化の必然の産物であるわけは?

実際に、自閉症も情緒不安定性パーソナリティ障害も、医学論文として症例報告されるようになったのは、20世紀前半で、ここ100年弱の話です。つまり、もともと原始の時代から受け入れられていたこの両者は、共感性とシステム化の両方がますます求められる高度な現代社会のなかでは「病」として問題視されるようになったのでした。

これが、この記事の冒頭で触れた、この2つの病態は人類進化の必然の産物であるゆえんです。そして、実際の遺伝子研究において、この両者の遺伝子は多因子あることからも、より適応するための遺伝子を進化の歴史でこつこつと増やしていったということを物語っています。逆に言えば、ただの不適応を起こすものであれば、単一因子で十分なはずで、多因子である必要がないです。つまり、多因子であるということが、進化の過程で獲得していったという何よりもの証拠です。。

この点からも、自閉症と情緒不安定性パーソナリティ障害は、最初から「障害」であったのでなく、生存と生殖のための機能であり能力であったと言えるでしょう。

★グラフ5 共感性とシステム化の起源

ちなみに、約700万年前に人類が共感性とシステム化といっしょに進化させた象徴機能は、約10万年前に貝の首飾りを信頼の証とする概念化という脳機能にさらに進化したと考えられます。これが、統合失調症の起源です。この詳細については、以下の記事をご覧ください。


>>【統合失調症の起源】

参考文献

*1 進化と人間行動(第2版)pp.122-123:長谷川寿一ほか、東京大学出版会、2022
*2 遺伝マインドp.58:安藤寿康、有斐閣、2011、※一卵性と二卵性の一致率のみの報告からそれぞれの比率をこの記事で算出
*3 標準精神医学(第8版)p.503:尾崎紀夫ほか、医学書院、2021