連載コラムシネマセラピー

私たちの身近にある映画、ドラマ、CMなどの映像作品(シネマ)のご紹介を通して、コミュニケーションメンタルヘルスセクシャリティを見つめ直し、心の癒し(セラピー)をご提供します。

【1ページ目】2021年12月号 映画「そして父になる」【続編・その3】どうほどほどに子育てをすればいいの? そして「人育て」とは?【育てるスキル】

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・「人育て」(人材育成)
・足場作り(スカフォルディング)
・仕掛け(ギミック)
・お手本(モデリング)
・ルール作り(オペラント条件づけ)
・理由づけ(合理性)
・お目付役(客観性)
・ほどほど度(介入レベル)
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前回(続編・その2)では、映画「そして父になる」を通して、子育ての正解とは、厳しすぎず、自由すぎず、ほどほどに子育てをする、つまり非認知能力をまず育んだ上で、認知能力を自ら高めることを促す自律的な子育てであることが分かりました。そして、その根拠を、行動遺伝学による研究と進化心理学による解釈から導きました。それでは、実際に、どう「ほどほどに」子育てをすればいいのでしょうか?

核家族化、少子化、一人親、ワンオペなど、現代の家庭環境が急激に変化し続ける最中、私たちは、本来の「ほどほどに」という子育てのあり方を見失ってしまいそうです。この答えを探るために、今回(続編・その3)は、引き続き、この映画を取り上げます。前回にご説明した、良い能力を促し悪い「能力」を抑えるという2つの家庭環境の機能を踏まえて、自律的に子どもを育てるスキルをご紹介します。さらに、そこから「人育て」(人材育成)のヒントをいっしょに考えてみましょう。

なお、この記事の中の家庭環境の機能とは、発達心理学の家族機能のいわゆる父性に当たります。母性と父性による家族機能の詳細については、以下の関連記事をご覧ください。


>>【母性と父性による家族機能】

どう認知能力を自ら高めることを促す?-良い能力を促す取り組み

1つ目の家庭環境の機能とは、言語理解を主とする認知能力を促すことでした。その2では、この機能を、現代社会に望ましいながらも癖になりにくい(嗜癖性が弱い)能力を促進する文化的な「アゴニスト」(刺激薬)であるとご説明しました。それでは、この良い能力をどう促しましょうか? ここから、大きく3つの取り組みをあげてみましょう。

①足場作り

映画のラストシーン。野々宮家の慶多が父親の良多に「スパイダーマンってクモだって知ってた?」とたずねます。良多は「ううん、初めて知った」と優しく答えます。子どもの取り違え騒動を経て、彼が変わったのが見て取れるシーンです。一般的な知識なので、おそらく彼は知っていたでしょう。でも知らないとあえて答えたのです。一方で、かつての良多だったら、「もちろん知ってるよ。クモってのはな・・・」と授業が始まったでしょう。

1つ目の取り組みは、足場作りです(スカフォルディング)。足場とは、もともと建物を作る時の作業のために簡易的に組まれた足を置ける板などのスペースです。この足場と同じように、子どもが何か新しいことを知ろうとしたり、少し難しいことにチャレンジしようとするときに、その動機を高める親のかかわりです。ここで、一方的にどんどん教え込んだり、先回りして教えてしまったら、その2でご説明した厳格な家庭環境になります。逆に全く教えなかったら、その2でご説明した放任的な家庭環境になります。そうではなくて、「ほどほどに」教えるのです。

例えば、 幼児はよく「なんで?」と質問します。この時に、すぐに答えを言わないことです。そして、必ずしもきちんと答えないことです。分からないふりをして、「なんでだろう」「なんでだと思う?」と質問に質問で返します。ヒントをさりげなく言ったり、わざと間違えてツッコませることもします。

また、子どもが学校から帰った時に、「今日は何を勉強した?」と聞かないことです。代わりに、「今日は何を質問した?」と聞くのです。「何が気になった?」「何をもっと知りたいと思った?」でもいいでしょう。これは、答えを見つけるのではなく、疑問を見つける働きかけです。結果よりもプロセスに重きを置く自発性(非認知能力)が育まれるでしょう。

なお、良い結果を褒めたり、ご褒美をあげることは、さらに動機を高めると信じている親は多いです。しかし、ここには、ある落とし穴があります。実際の心理実験において、まず、絵を描くのが好きは子どもたちを、上手に描いたら賞状をあげるグループと何もしないグループに分けます、そして、絵を描かせます。すると、賞状をもらったグループの子どもは、何もしなかったグループの子どもよりも、その後にただ絵を描く時に、その時間が短くなったという結果が出ています。ご褒美がなければもうやらないと心変わりしていったわけです。つまり、何かをする楽しさやおもしろさ(内発的動機づけ)が、報酬(外発的動機づけ)によって削がれてしまうわけです(アンダーマイニング現象)。

このことから、子どもが楽しんで何かをしている時は、出来栄え(結果)だけを極端に褒めたり、ご褒美を毎回あげたりするのは望ましくないことが分かります。そうされた子どもは、出来栄えを褒められることやご褒美をもらうことばかりにとらわれてしまうからです。出来栄えを褒めたりご褒美をあげるのは時々(ほどほど)にして、まずは「がんばってるね」とそのがんばり(プロセス)を褒めたり、「楽しいね」と共感することが良いでしょう。

褒めるスキルの詳細については、以下の関連記事をご覧ください。


>>【褒めるスキル】

似たように、子どもが本好きだからと言って、本をどんどん買い与えたり、読み聞かせをしつこくやると、本のありがたみや読み聞かせを聞く喜びが削がれたり、言いなりになりたくないという反抗の心理を煽るリスクがあります(心理的リアクタンス)。やはり、もったいぶるくらい(ほどほど)が効果的でしょう。また、子どもへの声かけとして「宿題は?」「勉強しなさい」と頻繁にプレッシャーをかけることは、今からやろうとしたり、やりたいと思っていた子どもの気持ちを削いでしまうリスクがあります。反抗期だと特にです。

「人育て」(人材育成)においても、全く同じことが言えます。好きで仕事に入れ込んでいるだけなのに、報酬が上乗せされたり、報酬ばかりをチラつかす職場環境は、逆に報酬がなければやらないという考え方に部下を仕向けてしまうリスクがあります。また、さらに教えてあげようと好意的に迫ってくる上司がいる職場は、部下から煙たく思われてしまいます。報酬や指導は適度に(ほどほどに)して、本人の成長やチームプレイ(人間関係)も評価することが効果的でしょう。ほどほどであることは、育つ側だけでなく、育てる側もストレスを減らし、自分の仕事に専念できるでしょう。