連載コラムシネマセラピー

私たちの身近にある映画、ドラマ、CMなどの映像作品(シネマ)のご紹介を通して、コミュニケーションメンタルヘルスセクシャリティを見つめ直し、心の癒し(セラピー)をご提供します。

【6ページ目】2021年12月号 映画「そして父になる」【続編・その3】どうほどほどに子育てをすればいいの? そして「人育て」とは?【育てるスキル】

③お目付け役

良多が、新しい父親として琉晴に家族のルールを座って説明している間、新しい母親になるみどりは、離れたところで立って荷物の片付けをしながら聞いているだけで、琉晴に背を向け、何も言いません。あたかも良多が独りよがりに話を進めているように見えます。

3つ目の取り組みは、お目付け役です(客観性)。これは、普段の行動に目を付ける(監視する)役職のように、いろいろな関係者の目を家庭に入れる親の取り組みです。ここで、野々宮家のように独断で細かいルールを押し付けると、厳格な家庭環境になります。逆に、斎木家のようにルールがはっきりせず、気まぐれで体罰があるだけだと、放任的な家庭環境になります。そうではなくて、民主的に(ほどほどに)ルールを作るのです。

例えば、家族会議です。少なくとも、両親がいるなら、両親が揃ってそのルールを伝えることです。さらに、祖父母・叔父叔母などの親族やママ友などを立会人として同席させることです。もしも、一人親で立ち会える親族やママ友もいない場合は、地域の保健師に立ち会いをお願いすることもできます。心療内科・精神科で心理カウンセラーが対応することもできます。このように、なるべく多くの目(お目付役)を、子どもに向けるようにすることで、子どもにルールを守らせる良い意味でのプレッシャーをかけることができます。

また、お小遣いルールだけでなく、家族のルールも書面化することです。そして、そもそものルールをつくる理由として、家族の目標(ビジョン)を掲げることです。例えば、ルールの理由として「自分で生きていける大人になるため」「家族で仲良くするため」「家族で助け合うため」などです。そうすることで、ルールを守る直接の理由だけでなく、そもそもルールが存在する意味を理解させることができます。特に、「家族で助け合う」というビジョンを掲げておくと、先ほどご紹介したお手伝い給料制において、「お金がもらえないならお手伝いはしない」という発想になるのを未然に防ぐこともできるでしょう。

★図2  家族のルールの例(7歳用)

さらに、年齢が上がれば、家族会議で、子どもにお小遣いアップやペナルティ変更を提案させることもできます。そして、その理由や根拠を示してもらうこともできます。これは、自分自身へのお目付役(客観性)になることであり、自分の行動に自覚(責任)を持たせ、子どもを大人扱いしていく取り組みでもあります。こうして、単に親(社会)が作ったルールに従うだけの認知能力ではなく、自分で考えて自分で自分(そして社会)のルールを作っていきたいと思う非認知能力が高まるでしょう。

子どもが納得した形でルールが決まると、家族会議の参加者全員が署名(承認)を入れる儀式も効果的です。この取り組みは、ものごとは話し合いによって決めるというお手本を見せることにもなります。まさに民主主義の基本であり、民主主義型という自律的な子育てを下支えするものでしょう。

なお、子どもを客観視させるスキルの詳細については、以下の関連記事をご覧ください。


>>【子どもを客観視させるスキル】

もっと言えば、このお目付役の取り組みは、ルールを課される側の子どもだけでなく、ルールを課す側の親にも効果があります。複数の目が家族のルールに向けられることによって、特に良多のように、一人の親が暴走して、独りよがりなルールを一方的につくり、教育虐待を招くリスクを避けることができます。例えば、それは、受験勉強のために「反抗禁止」「恋愛禁止」などの過剰なルールを設けることです。「ブラック校則」ならぬ、「ブラック家庭ルール」です。これは、明らかにやりすぎであり、子どもの権利への侵害のおそれがあります。なぜなら、思春期の子どもが、反抗するかしないか、恋愛するかしないかは本人が決めることであり、本人の権利だからです。

この点で、妻(または夫)が夫(または妻)に「私の子育てに口出ししないで」と当たり前のように言うのは、かなり危うさがあります。これは、夫婦の一方だけに決定権がある状況を子どもに見せることであり、夫婦関係(人間関係)のあり方の悪いお手本となります。子どもが、友達関係においていじめ加害者になったり、いじめ黙認者になる危うさもあるでしょう。

ちなみに、受験勉強のために子どもの人権をないがしろにする親のかかわりは、もはや過激思想と同じくらい合理主義的でも個人主義的でもないです。これは、教育虐待のリスクがあるばかりか、統合失調症の発症させる心理社会的ストレスのリスクがあることをその2ですでにご説明しました。

「人育て」(人材育成)においても、全く同じことが言えます。先ほどの人間関係の問題の実際のケースを紹介して、そのルールを職場の全員に考えてもらい、ペナルティを決めてもらうことです。これは、同調の心理を促し、ルール遵守の心理を高める効果があるでしょう。

なお、同調させるスキルの詳細については、以下の関連記事をご覧ください。


>>【同調させるスキル】

★表4 育てるスキル

表4に示しているように、良い能力を促す取り組みも悪い「能力」を抑える取り組みについても、年齢が上がっていくにつれて、ほどほど度(介入レベル)を弱いものにシフトさせていくことが効果的です。なぜなら、それが大人扱いをしていくことであるからです。そして、それが、親に言われて生きて行くのではなく、親に言われなくても自分で生きていける大人にさせることであるからです。

なお、最初にご説明した「足場作り」で、子育てを建築工事に例えました。さらに、愛着(親に愛着を持つ「能力」)は土台、非認知能力は柱、そして認知能力は外壁に例えることができます。早期英才教育をするということは、支える柱がしっかりしていないのに、親が外壁だけ無理やり作らせているようなものです。そんな家は、環境変化(心理社会的ストレス)という地震などの災害にとても脆弱でしょう。非認知能力という柱は、太ければ太いほど、子どものメンタルという家をより丈夫でしなやかにするでしょう。そんな家が、また次の世代で、同じように丈夫でしなやかな家を造ることができるでしょう。

★図3 子育てを建築工事に例えると

サブタイトル”Like father, like son”とは?

ラストシーンで、慶多と琉晴を中心に、野々宮家と斎木家のみんなが、笑い合って、1つの家の中に入っていく様子は、感動的です。慶多と琉晴のために、2つの真逆の家庭環境が融合し中和して、「ほどほど」の家庭環境が生まれた象徴的なシーンです。

サブタイトルであり、海外向けのタイトルでもある”Like father, like son”とは、「この親にしてこの子あり」「親が親なら子も子」という意味です。それは、子育てを通して、親の認知能力も非認知能力も試されているニュアンスがあるように思えてきます。

けっきょく子育ての正解とは、認知能力を高めることそのものではなく、子どもが人生を楽しみ幸せを感じるトータルな「能力」を育むことではないでしょうか? そして、その「幸せ」はその子どもそれぞれであり、本人が決めることであることを私たちがよく理解した時、子育ての正解は「正解がない」または「正解がたくさんある」という逆説的な正解に納得できるのではないでしょうか? そして、子育てをもっと賢く楽しめるのではないでしょうか?

※参考図書
1)非認知能力を伸ばすコツ:中山芳一、東京書籍、2020
2)自分をコントロールする力 非認知スキルの心理学:森口佑介、講談社現代新書、2019
3)子どもにおこづかいをあげよう:西村隆男、主婦の友社、2020