連載コラムシネマセラピー

私たちの身近にある映画、ドラマ、CMなどの映像作品(シネマ)のご紹介を通して、コミュニケーションメンタルヘルスセクシャリティを見つめ直し、心の癒し(セラピー)をご提供します。

【2ページ目】2021年12月号 映画「そして父になる」【続編・その3】どうほどほどに子育てをすればいいの? そして「人育て」とは?【育てるスキル】

②仕掛け

野々宮家には、ピアノ・ギターなどの楽器や最新の英語の音声教材が置かれ、壁に地図が貼られています。もちろん、本もたくさんあります。そんな野々宮家で暮らすようになった琉晴は、ピアノに興味を持ち、メチャクチャながらも、鍵盤を弾き続けるシーンがありました。

2つ目の取り組みは、仕掛けです(ギミック)。仕掛けとは、もともと釣りや手品のように、ある目的のために巧みに工夫されて仕組まれたものです。この仕掛けと同じように、子どもが興味を抱きやってみたくなったり、逆に葛藤を抱き考えさせる親のかかわりです。ここで、無理やり押し付けたり、やらせようと叱ってしまったら、やはり厳格な家庭環境になります。逆に、何もしなかったら(何もなかったら)、やはり放任的な家庭環境になります。そうではなくて、「ほどほどに」仕向けるのです。

例えば、幼児はよく「やりたいやりたい」と言います。この時、危ないことでなければなるべくやらせてみることです。料理や家事をしている時に、あえて鼻歌を歌いながら楽しくやれば、お手伝いを仕向けることもできます。もちろん、そのために手間と時間がかかっても、ちゃんとできていなくてあとで親がやり直すことになっても、自発性(非認知能力)を高めるために、あえてやらせるのです。お手伝いは、社会経験の第一歩です。あえてできそうな頼み事をしても良いでしょう。ここで注意点は、「ちゃんとできていない」とダメ出ししないことです。そうではなくて、「助かる」「うれしい」「ありがとう」に加えて、「〇〇ちゃんが手伝ってくれた料理はおいしいなあ」「〇〇くんがしてくれたお掃除で気持ちが良いなあ」とぼそっと(ほどほどに)言い、お手伝いを通して役に立っている感覚としての自発性を育むのです。

一方で、幼児はよくけんかをします。兄弟や友達とけんかが始まると、または始まりそうになると、親としてはトラブルを起こしたくないので、つい先回りして引き離したくなります。しかし、ここも我慢です。ある程度、小競り合いになるまで泳がせて見届けます。そして、手が出たり、ケガになりそうになった時に、介入します。全くほっとらかしにするわけではありません。この点で、野々宮家のように子どものけがに神経質にならない方が良いでしょう。

子どもは、実際の集団遊びの中、特に葛藤場面でセルフコントロール(非認知能力)を高めています。そもそも、けんかをしなければ、仲直りの仕方が学べないです。つまり、何かトラブルが起きそうなピンチにこそ、そこに学びのチャンスがあるのです。

習いごとも仕掛けの1つとしては使えます。ただし、習いごとの目的は、学習成果ではなく、学習態度であると割り切ることです。まずは、楽しんでやり続けることができるかを一番とすることです。逆に言えば、ガチガチに管理して、できるだけ多くやらせたり、無理やりにやらせないことです。無理やりやらされている限り、自分で考えて行動するという自発性は育まれません。習いごとはあくまで子どもが望んだ場合のオプションであり、豊かな発達のための刺激の1つに過ぎません。経済的な事情があれば無理してやらせることではないでしょう。お金をかけなくても、親ができることは他にもたくさんあります。

逆に言えば、「習いごとを続けろ」「勉強をしろ」と叱り飛ばすことに、ほとんど意味はなくなります。それどころか、これは、教育虐待のリスクがあることをその1ですでにご説明しました。実際の動物実験において、犬に電気ショック(罰)を与え続けると、最初は逃げるのに、やがて逃げられないことが分かると、逃げるのをあきらめてしまい、その後に逃げられる状況になっても、逃げなくなることが分かっています。同じように、人間の心理実験において、もともと解決できない問題を解かされた学生は、その後に簡単な問題を与えられても取り組もうとしなくなることが分かっています。つまり、無理難題を強いられること(外発的動機づけ)によって、自分は問題を解決することにおいて無力であると学習してしまい、やる気(内発的動機づけ)が削がれてしまうわけです(学習性無力感)。

例えば、ピアノ演奏会のシーン。慶多は練習の通りに本番でうまく弾けず、うまく弾いている他の子に「上手だね」と感心して言います。そんな慶多に父親の良多は「悔しくないのか? もっと上手に弾きたいと思わなければ続けてても意味ないぞ」と叱ります。すると、慶多は顔をこわばらせて萎縮するばかりなのでした。この状況への効果的な仕掛けは、叱るのは必要最低限(ほどほど)にして、「うまい子もいるねえ」「でも慶多も練習がんばったよね」「今日の演奏会は楽しかったね」と言うことです。すると、次の演奏会に向けて自らもっと練習に励むでしょう。もしも慶多が悔しがっているのなら、「悔しいね」「でもパパとママは慶多が練習してきたのをずっと見てきたよ」と言えば、自分で自分を慰めるセルフコンッパッション(セルフコントロール)を高めることができるしょう。

叱るスキルの詳細については、以下の関連記事をご覧ください。


>>【叱るスキル】

なお、日本ならではの裏メッセージ(ダブルバインド)の文化には注意が必要です。例えば、「心配ねえ」「駄目ねえ」「無理よ」という声かけです。これは、奮起させる効果がある一方、自尊心や自信をなくさせて、やる気を削ぐリスクがあります。やはり奮起させる声かけはほどほどにして、「うまく行くよ」「大丈夫だよ」「あと少し」という受容的な声かけを織り交ぜるのが良いでしょう。

「人育て」(人材育成)においても、全く同じことが言えます。部下にダメ出ししたり叱咤激励をするのはほどほどにして、まずは部下がやる気を高める職場環境を整えることに重きを置くことが効果的でしょう。