連載コラムシネマセラピー

私たちの身近にある映画、ドラマ、CMなどの映像作品(シネマ)のご紹介を通して、コミュニケーションメンタルヘルスセクシャリティを見つめ直し、心の癒し(セラピー)をご提供します。

【2ページ目】2024年6月号 女性誌「STORY」【その2】そもそもなんで溺愛は気持ち悪いの?どうすればいいの?-家族療法

そもそも溺愛を避けるために発達した家族の形とは?

子どもへの溺愛が気持ち悪いと思う原因は、匂い(表現型マッチング)、馴染み(ウェスターマーク効果)、家族の呼び名(親族呼称)という血縁認識によって近親相姦を回避しているからであることが分かりました。

ここから、そもそもこの溺愛(近親相姦)を回避するために発達した家族システムを3つ挙げてみましょう(*4)。

①母系家族

先ほどのリスも、その後に誕生した真猿類も、大人になるとオスは親元を離れて他の群れに加わったりしますが、メスは親元に残り、メスたちだけに血縁のある群れをつくります。

1つ目は、母系家族(母系社会)です。この家族システムは、オスが親元を離れるため、きょうだい間と母息子間の近親相姦を回避できます。一方で、父娘間の近親相姦の回避は家族システムとしてはできません。

人類も、祖母が娘の子育て(孫育て)に参加したがる「祖母効果」の心理が進化していると考えられることから、約300万年前に誕生した核家族から母系家族になっていったことが推定されます。また、母系家族であるということは、父娘間の近親相姦をなるべく回避するために、娘は匂いによる血縁認識がしっかりできる必要があります。これが可能であるため、現在に残る母系社会では、女性の性生活はかなり自由であることも分かります(*5)。

なお、祖母効果の詳細について、以下の記事をご覧ください。


>>【祖母効果】

②父系家族

人類に最も近い類人猿のチンパンジーは、大人になるとメスが親元を離れて他の群れに加わり、オスは親元に残り、オスたちだけに血縁のある群れをつくります。

2つ目は、父系家族(父系社会)です。この家族システムは、メスが親元を離れるため、きょうだい間と父娘間の近親相姦を回避できます。一方で、母息子間の近親相姦の回避は家族システムとしてはできません。

人類は、約1万数千年前の農耕牧畜革命以降、食料の蓄積が可能になり、集団のサイズが大きくなっていきました。また、富を子どもに相続させるにあたって、争いが増えていきました。こうして、腕力で勝る男性が中心となる父系家族が現在に至るまで置き換わっていって、封建社会を発展させたのでしょう。

なお、家族システムとして父娘間の近親相姦が回避できるようになったのに、娘は父親の匂いを嫌悪するという行動がいまだに残っているのは、やはり父系社会よりも母系社会の方が圧倒的に長かったことが推定されます。

封建社会の起源の詳細については、以下の記事をご覧ください。


>>【封建社会の起源】

③核家族

先ほどのチンパンジー以外で、人類に比較的近い類人猿のゴリラ、オランウータン、テナガザルは、大人になるとオスもメスも親元を離れます。彼らの配偶システムには違いがあり、ゴリラは一夫多妻型(ハーレム型)の群れをつくり、オランウータンは単独型(母子家庭)、テナガザルは一夫一妻型(核家族)で群れをつくりません。

3つ目は、核家族です。この家族システムは、オスもメスも親元を離れるため、きょうだい間、父娘間、母息子間の全ての近親相姦を回避できます。

人類は、チンパンジーと共通の祖先から分かれた約700万年前の当初は、チンパンジーと同じ父系家族であったかもしれません。しかし、配偶システムにおいて、チンパンジーが多夫多妻型(乱婚型)であるのに対して、人類は約300万年前に一夫一妻型(核家族)になったことから、いったん単独型(母子家庭)になっていたことが考えられます。その後は、先ほどご説明した通り、血縁集団(部族)が大きくなっていく過程で母系家族に置き換わり、農耕牧畜革命以降に再び父系社会(封建社会)に置き換わり、現代では再び核家族が増えています。

さらに、昨今、選択的シングルマザーが増えてきています。このような女性は実母を頼る傾向から、近未来では、再び母系家族も増えていき、家族システムが多様化していくことが予想されます。

なお、選択的シングルマザーの詳細については、以下の記事をご覧ください。


>>【選択的シングルマザー】

★グラフ2 家族システムの変遷