【5ページ目】2026年1月号 NHKドラマ「心の傷を癒すということ」【その3】なんで虐待されると多重人格になるの?-「ニューラルネットワーク分離発達説」
脳科学からみる多重人格とは?-生まれるのではなく1つにならなかっただけ

安先生が言ったように、従来の精神医学では、「その子の中に痛い思いを引き受けてくれる人格が生まれる」という多重人格のメカニズムの解釈がありました。これは、私たちの心に訴える文学的なセンスはあったのですが、残念ながら科学的な根拠はありませんでした。
脳科学の視点から多重人格のメカニズムに迫ると、人格部分とは、もともと1つだった人格が部分に分かれたのではなく、もともとエピソード記憶のニューラルネットワークの1つ1つの部分が最終的に1つの大きなエピソード記憶のニューラルネットワーク(人格)につながらなかった(統合されなかった)、つまりこの記事で提唱する「ニューラルネットワーク分離発達説」として理解することができます。つまり、人格部分とは、急にぽんと生まれたのではなく、最終的に1つにならなかっただけだったのでした。そう考えると、多重人格はそれほど不思議な現象でもないように思えてきます。
今回、多重人格はどうやってなるかを解き明かしました。それでは、人類の心の進化の歴史のなかで、多重人格はいつ生まれたでしょうか? 言い換えれば、多重人格はなぜ「ある」のでしょうか?

>>【その4】そもそもなんで多重人格は「ある」の?-進化精神医学から迫る解離性同一症の起源
参考記事
参考文献
*1 DSM-5-TR、p323、日本精神神経学会、医学書院、2023
*2 心の解離構造、p196:エリザペス・F・ハウエル、金剛出版、2020
*3 <眠り>をめぐるミステリー、p188:櫻井武、NHK出版新書、2012
*4 乳幼児のこころp104、遠藤利彦ほか、有斐閣アルマ、2011








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