連載コラムシネマセラピー

私たちの身近にある映画、ドラマ、CMなどの映像作品(シネマ)のご紹介を通して、コミュニケーションメンタルヘルスセクシャリティを見つめ直し、心の癒し(セラピー)をご提供します。

【2ページ目】2024年5月号 映画「チャーリーとチョコレート工場」夢の国は「中毒」の国!?その「悪夢」とは?-嗜癖症

4人の子どもたちはなんで脱落したの?-3つの嗜癖症

先ほどの4人とチャーリーを含む5人の子どもたちとその親が工場見学をするさなか、一人ずつトラブルに巻き込まれ、いなくなっていきます。そのたびに、従業員の小人たちがどこからともなく大群で現れ、その子どもの問題点を歌とダンスで揶揄します。

それでは、4人が脱落したわけをそれぞれの歌の歌詞から解き明かし、嗜癖症の視点で3つに分けてご説明しましょう。

①チョコレートにハマってやめられない―物質の嗜癖症

チョコレート工場の内部には、公園があり、木、川、滝、そして地面の草のすべてがチョコレートでできていました。ウォンカから「川のチョコは素手で触らないで」言われますが、食いしん坊のオーガスタスは感激のあまり、その言いつけ(制限)を聞き入れず、それをすくって飲もうとして誤って川に落っこちます。そして、泳げないため、そのままチョコレートのパイプに吸い上げられ、チョコレートの加工部屋に流されてしまったのでした。その時の歌詞は「食い意地張った嫌われ者」でした。

1つ目は、何かを体に摂取することにハマってやめられない、つまり物質の嗜癖症です。これは、彼のようなむちゃ食い症(摂食障害)のほかに、食べ吐き(摂食障害)、アルコール依存症、カフェイン依存症、ニコチン依存症、薬物依存症などがあげられます。

②買い物またはゲームにハマってやめられない―行動の嗜癖症

何でも欲しがるベルーカは、工場でくるみ割りをするリスたちを見て感激し、ペットとして欲しがります。しかし、ウォンカから売り物ではないと言われたため、力ずくで手に入れようと、リスを捕まえます。すると、リスたちから反撃され、くるみの殻の焼却炉に通じるダストシューターの穴に落とされてしまうのでした。その時の歌詞は「鼻つまみ者」でした。

ゲーマーでメカに詳しいマイクは、チョコレートを瞬間移動させる転送機を見て、それが実は大発明であることをウォンカに説きます。しかし、ウォンカはチョコレートの転送しか興味を示さず、マイクはそれに腹を立て、無謀にもゲーム感覚で自分が転送機の中に入ります。しかし、設定がうまく行っておらず、転送されたマイクは小さくなってしまったのでした。その時の歌詞は「心は空っぽ」でした。

2つ目は、何かをすることにハマってやめられない、つまり行動の嗜癖症です。映画では描かれていませんでしたが、ベルーカのような買い物依存症(オニオマニア)は、手に入れたら興味を失い、また新しい何かを手に入れようとします。手に入る瞬間の快感や万能感を味わいたいために繰り返します。もはや、買うために買っている状態です。

行動の嗜癖症は、この買い物依存症やゲーム依存症のほかに、ギャンブル依存症、ため込み症、抜毛症、醜形恐怖症、情緒不安定性パーソナリティ障害、窃盗症(クレプトマニア)、性嗜好障害(パラフィリア)、セックス依存症(ニンフォマニア)などがあげられます。

③ちやほやされることにハマってやめられない―人間関係の嗜癖症

いつも1番が大好きなバイオレットは、工場の研究室で世界初となる「フルコースディナーが味わえるガム」の試作品を見つけます。そして、ウォンカから「まだ未完成だし、いくつかの点で問題が・・・」と忠告されたのに、それを振り切って食べてしまいます。すると、試作品の副作用で彼女の体はブルーベリーのように青紫に変色して大きく膨れ上がり身動きが取れなくなってしまったのでした。その時の歌詞は「噛んでばっかり」でした。

3つ目は、人と何かでかかわることにハマってやめられない、つまり人間関係の嗜癖症です。これは、彼女のような「承認中毒」のほかに、「正義中毒」(過剰バッシング)、ミュンヒハウゼン症候群(作為症)、共依存、ひきこもり、モラルハラスメント・DVなどがあげられます。

なお、嗜癖症とは、あることが好きになりやめられなくなり困ってしまう病態です。やめられる(コントロールできる)なら単純な嗜癖、できないなら嗜癖症と区別します。なお、世界保健機関(WHO)の診断基準(ICD-11)ではDisorders due to substance use or addictive behaviors、アメリカ精神医学会の診断基準(DSM-5-TR)ではAddictive Disorderとそれぞれ表記され、依存症を包括しています(*1)(*2)。また、表1のそれぞれの疾患は、厳密には別の疾患グループに分類されているもの(※と表示)や、エビデンス不足で疾患概念としてまだ確立していないもの(※※と表示)もありますが、この記事では嗜癖の要素を踏まえて「嗜癖症スペクトラム」としてまとめています。それぞれの嗜癖症の詳細については、表2のそれぞれの疾患をクリックしてご覧ください。

表2「嗜癖症スペクトラム」

物質 行動 人間関係※※
摂食障害
アルコール依存症
・カフェイン依存症
・ニコチン依存症
・薬物依存症

買い物依存症(オニオマニア)※※
ゲーム依存症
ギャンブル依存症
・ため込み症※
・抜毛症※
・醜形恐怖症※
・情緒不安定性パーソナリティ障害※
・窃盗症(クレプトマニア)※
・性嗜好障害(パラフィリア)※
・セックス依存症(ニンフォマニア)※※
「承認中毒」※※
「正義中毒」
(過剰バッシング)
※※
ミュンヒハウゼン症候群
(作為症)※
共依存※※
ひきこもり※※
モラハラ・DV※※

※の表示:厳密には別の疾患グループに分類されているもの
※※の表示:エビデンス不足で疾患概念としてまだ確立していないもの